ブックタイトルメカトロニクス5月号2021年
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メカトロニクス5月号2021年
42 MECHATRONICS 2021.5第35回 <話題商品を支えた日本の標準化活動> 企業で新しい製品を開発して、商品化した場合に重要なのが、如何に効率良く、生産性を高めて生産するかにある。ここで重要なのが、「企業内での標準化活動」である。そして産業界では互換性のあるものの製品化であると同時に最終的には国際標準にもち込むことではないかと思う。 今回は、話題商品を支えた日本における「標準化活動」について紹介する。1.企業内の標準化活動 具体的な標準化の事例を理解して頂くために入社5 年の技術者を例にして紹介する。1) 若手技術者は、低温で打抜き加工のできる紙フェノール銅張積層板が新たな開発テーマとして与えられた。この新しい紙フェノール銅張積層板は、3年後に製品化されるカラーテレビに適用されるものでドリフト特性の優れた紙フェノール銅張積層板であることが新たに加わった特性であった。 そのため新しい難燃性変性フェノール樹脂の開発が必要で、樹脂開発に1年、その新しい樹脂を使って銅張積層板に仕上げるのに1年、最後の1年で客先での評価を実施した上で、量産体制を整える・・・といった計画で進めることになった。 様々な変性方法を検討し、低温で打抜き加工ができるようにするためにフェノール樹脂は可撓性の付与が必要となる。フラスコ実験を繰り返し、様々な合成条件を決め、変性剤に桐油を使い酸触媒の元で骨格に入り込む反応型の桐油変性フェノール樹脂の開発が低温打抜き性と難燃性を両立させるのに苦労したものの当初の計画通り、約1年で完了し、フラスコ実験からパイロット試作、さらには量産試作までこぎ着けることができた。 ここで必要なのが量産体制を整えるために、新しい材料に関しては「材料仕様書」の準備である。特に材料選定にあたって、桐油には中国産、台湾産、アルゼンチン産などがあり、反応性に微妙に異なることが判明し、中国産の桐油を指定する必要がでた。そのため、材料仕様書の中には、解説の項で、産地によって共役二重結合の含有量が異なり、反応性が異なること分かるように記載したのは言うまでもない。今回の量産には中国産以外は使用しないものの将来、台湾産なども使えるように触媒の量などが異なる点も注記して後日、分かるように配慮もして材料仕様書を作成した。 材料仕様書に従って、「購入仕様書」や「受入検査規格」の作成が必要である。つまり規格を作成して、その規格に合致したものを購入しなければならない。そして初期流動期間は、受入検査を実施して定特定非営利活動法人 日本環境技術推進機構 青木 正光めた数値が規格内に入っているかの確認も必要である。安定していることが判明すれば受入検査は省略して供給者から提出された試験成績表の数値の確認のみを実施すれば良い。このような流れも社内で標準化して誰でも理解できるようにしておくことが必要である。 製造現場でフェノール樹脂を量産するには、「製造標準書」が必要となる。材料の配合表、加熱条件として温度上昇方法、反応温度、真空度、反応終点の条件(屈折率、硬化時間)などの記載が必要となる。 そして製造された変性フェノール樹脂の諸特性として粘度、比重、樹脂含有量、硬化時間などの特性値が必要である。この変性フェノール樹脂に、他の例えば難燃剤・添加剤などを調合する場合には、その製造標準書も必要となる。 以下、紙に変性フェノール樹脂を含浸して半硬化状態のプリプレグを造る場合、あるいは、そのプリプレグと銅箔を重ねて加熱加圧して一体成形する場合にも、樹脂の時と同様に、製造標準書の作成が必要である。 銅張積層板ができ上がると当然ながら、その銅張積層板の特性値を決める必要がある。量産段階になれば、コスト計算の基礎資料も集めることも最後に残る。製造上、条件を決めるために作業損として発生する量が新たに開発した製品が、どの程度、発生するかの確認が必要である。製造がし易すければ、当然、歩留は良くなる。 企業内には図1に示すような各種の仕様書が存在し、開発から量産までの一連の標準化活動がこのようにして企業の社内で実施されて製品ができあがる。 以上、企業内では当たり前のように標準化活動が実施されており、企業によっては年に1~2度、標準化大会などを開催して、事業所、工場ごとの活動状況を共有する仕組みも存在する。 また、社内標準化で重要なのは「1年経ったら見直せ」、「3 年経ったら改定せよ」、「5年経ったら作り直せ」との格言がある。古い標準類の棚卸をして見直すことも重要な標準化活動の一つであることも忘れてはならない。 以上、一人の若手技術者が企業内で、どのように標準化をするかを簡単に紹介した。2. 産業活動での標準化活動 さて、産業界での標準化活動の歩みについて紹介しよう。2-1. 標準化活動の歩み 18 世紀後半にイギリスでの産業革命と共に標準化が始まった。そして19 世紀になって日本は欧米より約100年遅れて産業革命が起こった。初期の頃のモールス信号の決め方では、独仏間の方式の違いがあり、国際間で問題となり、標準化の重要性が認識されて、1868 年に万国電信連合(現 ITU)において国際規格化された経緯がある。2) 日本は1868年の明治維新以来、すさまじい勢いで西洋の技術や制度を取り入れてきた。1908年に第1 回IEC 会議が開催されたが、その会議に日本を代表して東芝の創業者の一人である藤岡市助が出席している。早くから国際標準化の重要性を認識していたと思われる(写真1)。2) 太平洋戦争後も、西洋の技術や制度の導入の流れは変わらず、産業技術も片端から欧米のものを導入し、それに伴って規格も外からもち込み、それを利用した。 新しい技術、仕組み、ルールをいち早く導入し、日本は驚くべき経済の復興を成し遂げてきた。そのような背景の中で日本工業規格「JIS」(現 日本産業規格「JIS」)は通産省(現・経済産業省)を推進母体と図1 企業内で存在する各種の仕様書の例写真1 1908年の洋行記念(パリ)前列左から2番目が藤岡市助(東芝未来科学館提供)