ブックタイトルメカトロニクス3月2021年

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概要

メカトロニクス3月2021年

MECHATRONICS 2021.3 43日本の産業構造の変化にともなう電子機器分野の話題商品を追う第33回 <ヒット商品はこうして生まれた!>は、ヒット商品を支えた知的財産権の重要性を指摘するために策定したものである。5) その中から電子機器関連に深い製品を拾って紹介しよう。2-1. 腕時計「アルバ・スプーン」/セイコー 腕時計のヒット商品といえば、1ヵ月に1万個売れたモデルを言ったが、スプーンをひっくり返したようなデザインがユニークで、セイコーの「アルバ・スプーン」は1995 年11 月末の発売から1 年で100 万個を売って業界の常識を覆した。 1995 年11月初旬に意匠登録出願し、類似品出現直後に早期審査制度を申請、1996年9月に意匠権を取得した。日本のほかに外国でも多数、意匠権を取得している。2-2. 英語学習用ポータブルCDプレーヤ/   リンガマスター リモコンのボタンを押すだけで、自然な英語・ゆっくりした発音の英語・日本語訳・日本語解説の4通りの音声情報に、瞬時に切り替えられることが特徴の社名と同じ名前の英語学習用ポータブルCDプレーヤ「リンガマスター」(登録商標)である。 特許でカバーされた同社の製品は、新しい英語の学習方式を確立するものと反響を呼び、英語教育出版のアルクや三省堂、ジャパンタイムズなどと提携し普及していった。2-3. エアサイクルクリーナ VC-J21V/   東芝・東芝テック 2000 年3月に発売された東芝のエアサイクルクリーナ(掃除機)VC-J21Vは、空気を循環させる方式を取ったため100%排気ゼロの驚異的新製品としてマスコミで大々的に取り上げられた。市場の反応も大きく、発売当初の出荷量は予想の倍を超えたという。100 件以上の特許が出願されている。2-4. 寿司ロボット 寿司職人 助人/鈴茂器工 一見、普通のお櫃にしか見えない「寿司職人助人」は、実は握り寿司のシヤリ玉をつくるロボットである。直径約45cm、高さ36cmで容量は2 升。 熟練した寿司職人でも1時間に握れるのは300個ほどであるが、このコンパクトな機械だが、最大1時間に1,200 個を「握る」能力をもつ。一定の重量、大きさのシャリ玉ができるだけでなく、その握り具合は10年の経験を積んだ寿司職人に匹敵するというから、まさに「助人」というにふさわしい。 「寿司職人助人」についても特許を取得し、また「寿司職人助っ人」として登録商標も得ている。2-5. 業務用冷蔵庫 「チルドマン」/オリオン機械 家庭用冷蔵庫の新機能として、「乾燥しない」あるいは「エチレン吸着」が話題になっているが、これらの機能を最初に実現したのが、長野県須坂市に拠点を置くオリオン機械の業務用冷蔵庫チルドマンであったことは、一般には知られていない。 民間研究機関から、秋に収穫したイチゴをクリスマスケーキ用に鮮度維持できる冷蔵庫の開発を依頼されたことから、チルドマンは生まれた。毎年売れ行きが倍増する大ヒットとなり、NHKの新技術紹介番組でも取り上げられた。関連特許、実用新案、商標も含めこれまで50件以上を出願した。2-6. プラスチック製帯状ヒータ「プラヒート」 /   ミサト 1972年にわが国で初めて札幌で冬季オリンピックが開催された時、その聖火台へ続く絨毯には雪が積もらず、さらにその会場の天皇・皇后ご臨席のロイヤル・ボックスの絨毯は温かく快適だった。 当時のブランデージIOC会長は「私が出席した冬季五輪のなかで、もっとも快適なロイヤル・ボックス」と称賛した。この絨毯の下には、埼玉県のミサトが開発してまもないプラスチック製帯状ヒータ(商品名:プラヒート)が敷かれていたのである。 プラヒートは後に科学技術庁長官賞を得ており、床暖房装置、窓際暖房装置、養豚・養鶏装置、鮭等の養殖装置など多くの用途に適用され、その間に約300 件の特許出願をして技術を保護している。2-7. アンプ内蔵型ギター/フェルナンデス どこでも楽しめるアンプ内蔵型のエレキギターをつくった結果、象をデフォルメしたような形になったそうだ。ギターは1モデルで年間2,000 本出ればヒット商品といわれる。バンドブームが最高潮だった1993 年から94 年にかけて、ZO-3(ゾーサン)シリーズは1年間でなんと7万本売れ、ヒット商品となった。2-8. ハイブリッドファン/潮 空調から出る風を分散させ、空気の流れをつくる株式会社潮のハイブリッドファンは、天井付近と床面の温度差を解消して、快適な空間を創造する。 天井カセット型など既設の空調機に簡単に取り付けられるほか、空調の風で回るので、それ自体はエネルギーをまったく消費しないのが大きな特徴である。2-9. Suica対応コインロッカー/アルファ 駅などに設置されているコインロッカーを、電子錠を利用した集中制御型に進化させたのが、株式会社アルファのAIT(77 ルファインテリジェントターミナルロッカー)である。現金でも利用できるが、最大のポイントは電子マネーEdy・Suica・PASMO・PiTaPaなどICカード型乗車券が決済だけでなく、鍵としても機能し、2005 年2 月Suica の電子マネー化を大々的にアピールし、上野駅でSuica対応型AITもデビューを果たした。2-10. 太陽温水器 ゆワイター/矢崎総業 太陽熱温水器の代名詞ともいうべき、矢崎総業株式会社の「ゆワイター」の発売は1976 年のことである。背景には第1 次、2 次石油危機時の原油の安定確保に対する危機感と同時に、国際的な太陽エネルギー利用の気運の高まりがあり、1974 年、太陽熱により冷暖房・給湯ができる実験ソーラーハウスを完成し、世界ではじめて太陽熱による冷房を行った。このために開発したのが、太陽集熱器「ブルーパネル」である。その製造方法は、国内はもとより、海外30ヵ国以上で特許出願した。 ゆワイターという名前は、社内で公募した中から、当時の矢崎裕彦社長(現会長)が採用したという。機能をずばりと表現する商品名は、消費者の認知度を高めるのに効果的だった。商標のほか意匠や実用新案を登録し、実用新案として公告され、ロイヤリティー収入が入ったという。2-11. ライスブレッドクッカー/パナソニック 米を水に浸けて柔らかくして砕く方法を採用したことによって、生の米からパンを焼ける世界で初めてのライスブレッドクッカー「GOPAN」が2010年に発売され、調理家電として地位を築いた。 GOPAN発表時の反響は開発チームの予想をはるかに超え、予約が殺到したために急遼、発売日を延期したほとだ。GOPANは4カ月で販売累計計画台数の約3 倍、17 万台を出荷した。2-12. 自動包あん機/レオン自動機 包あん機は、お饅頭に代表されるように、内材(あん)を外皮材で包む工程を自動で行う機械をレオン自動機が世界最初に開発し、包あん機で国内のシェア約90 %を誇る。 「火星人」の名称は、包被切断部分に新たに開発したシャッタ機構とコンピュータ制御を導入した1986年に商標登録された。同社は包あん機と独自技術による製パン機を二本柱として、世界の119ヵ国で納入実績がある。2-13. 3Dプリンタ/アスペクト 株式会社アスベクトの3Dプリンタ「ラファエロ」シリーズは、プラスチックや金属の最終製品を高い精度で製造できる装置として世界から高い評価を受けている。大量生産に向かない航空機やFlレース用の車の部品が、すでに3Dプリンタでつくられている。また補聴器などのオーダーメイド製品も手軽つくることができる。2-14. 配電盤システム「SOLAR SPEC」/   Wave Energy 株式会社WaveEnergyの太陽光発電所向けパワーコンディショナ(パワコン)、高圧盤、変圧器を組み合わせた配電盤システム「SOLARSPEC」は、2012年の市場投入から4 年間で売上げを6倍に伸ばし、今や同社の売上げの約8割を占める事業の柱となっている。 以上、“ヒット商品”となった背景を理解して頂ければ幸いである。<参考資料>1)森 行生、“ヒット商品を最初に買う人たち” p3  ソフトバンク新書(2007)2)日経産業新聞社“ヒット商品”(1999)3)産経新聞、“ヒット商品” 2019-04-194)日経産業新聞、“日経優秀製品・サービス賞39年史”2020-08-11&2020-08-125)日本弁理士会、“ヒット商品はこうして生まれた写真1 “ヒット商品はこうして生まれた!”の表紙   <ヒット商品を支えた知的財産権>”( 2018)