ブックタイトルメカトロニクス8月号2020年

ページ
47/52

このページは メカトロニクス8月号2020年 の電子ブックに掲載されている47ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

メカトロニクス8月号2020年

MECHATRONICS 2020.8 47工業技術院機械試験所が研究主体となり、国内の工作機械メーカーと電機メーカーの協力体制下で進められた。 フライス盤は、将来の発展の可能性を秘めた工具通路の連続制御を行う3軸制御の技術開発を目的として開発対象に撰ばれ、サーボ機構として電気式と油圧式の2 方式が試作された。 機械本体は、牧野フライス製と日立精機製の既存品を用いて制御方式の研究に重点が置かれた。これは既存の工作機械に取り付ければNC制御ができる制御装置の開発を狙った物で、(株)ファナックの基礎技術はここで培われたとも言われる。 一方、ジグ中ぐり盤が選ばれたのはデジタル技術による位置決め制御の限界を究めることを目的としたもので、この機械が必要とする高い位置決め精度の実現の可能性を探るためであった。機械本体を機械試験所と三井精機(株)が協同して試作し、NC工作機械に必要な機械構造を追求すると共に位置決めのための駆動機構や制御方式などが追求され、我国独自のNC工作機械が1959年3月に完成し「Jidic」と名付けられた。通産省が主導したこの研究プロジェクトはその後の我国のNC 工作機械技術の土壌となったとも言われる。 工作機械は技術統合型の製品であり、複数の高度な技術力を要求する部品群のインテグレーションによって製造されている。工作機械は摺り合せ型の製品であるために、日本が得意とする分野である。 生産拠点が主に国内で展開されている大きな理由として、高い技術をもつメーカー、ユーザー、サプライヤーが国内に集積している点が挙げられる。 1981 年以前は米国が長い間、工作機械の生産では世界一のシェアを維持していた。その後、競争力をもつ日本の工作機械の世界シェアは、27 年間(1982 ~2008 年)連続1 位を持続していた。27 年間も維持したのは偉業とも言える。因みに携帯電話で世界シェアを14年間、維持できたのはフィンランドのノキアであった。14年間も世界一のシェアは凄いと思うものの工作機械分野では27年間も世界一のシェアを維持したのであるから凄いに尽きると思う。 この偉業を達成できたのは、日本工作機械輸入協会の藤田哲三顧問が、①戦中・戦後期の政府の工作機械助成策として、4度にわたる模倣令の交付、②1952年以来30 年間にわたり160 件以上の技術提携、③CNC 工作機械の開発、④世界に向けて海外市場へ積極的進出の4 点を挙げている。 しかし、2009 年は2008 年後半からの景気減速の影響を大きく受け、中国に続く第2位にとどまった。 さて、国内の工作機械の市場の推移を鳥瞰してみると図2 のようになる。山と谷を繰り返す受注サイクルの4つの山があり、最初の山は1990 年である。この年は、国内の自動車生産台数がピークの年でもあった。3) 1990 年以降、国内需要は自動車の生産台数の減少と共に構造的に縮小傾向にあり、海外需要は中国を中心に拡大してきたほか、将来的にも緩やかに拡大することが予想される。 好不調の判断目安は単月で1,000億円とされ、年間1兆円は「不調」の水準とも言われる。日系工作機械メーカーのプレゼンスの拡大には、海外需要をいかに取込むかが重要となると予測している。4) 新型コロナウィルスによる肺炎の拡大で生産停止などの影響を受け、受注低迷に悩まされている工作機械業界に追い打ちをかけられた状態で2020年度は大幅な減少が見込まれているものの工作機械メーカー各社は、虎視眈々と次の山頂の2兆円(世界市場は約9兆円)の大台を目指して競争力に磨きをかけている。 日系工作機械メーカーは、国内大手の電機メーカーや自動車メーカーなどの厳しい要求に対し、機械性能(精度、速度、剛性等)や高機能化を向上させることで対応して成長してきた。工作機械の機械性能面や高機能化での強みを活かしながら海外需要の取込みを進め、世界に打って出た意義は大きい。 世界の工作機械メーカーの売上規模のTop10を挙げると日本のヤマザキマザックをトップに、第5位にジェイテクトが、第7 位にアマダが、それぞれ連ねている(写真2)。 工作機械の競争軸は、精度、速度、剛性といった性能向上から、ユーザビリティの向上、工程の集約化・自動化提案、ターンキーなどの生産体制構築サービスの提供の巧拙に徐々にシフトしつつあり、取り組み方法の転換も必要となってきた。既に、「2006年版ものづくり白書」でも保守・補修などのアフターサービス体制の充実を指摘している。 ドイツが進めるIndustrie 4.0やIoT/A(I =AIoT)の進展により、さらなるネットワークを加味した高度化が重要となってきた。ローカル5Gを導入してロボットを併用しての工作機械の自動運転の時代の到来が迫ってきたと言えよう。 以上、工作機械の発展状況のヒストリーと市場動向を理解して頂ければ幸いである。<参考資料>1)矢田恒二 “ 機械と器械の違いは何か”  http://www.ne.jp/asahi/yada/tsuneji/  history/index.html2)藤田哲三 “ 工作機械生産 世界トップの歩み” 日刊工業新聞 p16 2020-03-303)吉田樹矢 “ 高付加価値生産を支えるマシニングセンター” 日刊工業新聞 p9 2019-08-264)みずほ銀行産業調査部 “ 日本産業中期見通し(工作機械)” No.2 p155(2018)図2 日本の工作機械受注高推移(日本工作機械工業会) 写真2 工作機械(ヤマザキマザック)図1 工作機械の輸入依存率