ブックタイトルメカトロニクス4月2020年

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概要

メカトロニクス4月2020年

MECHATRONICS 2020.4 45日本の産業構造の変化にともなう電子機器分野の話題商品を追う第22回 <裏の技術(3)>る化」して、技能のレベルを段階分けして、技能レベルの高い定年退職者を講師にして、指導する方法を採用している企業もある。熟練技能者が後継者に対して1 年間、マンツーマン指導したり、専門知識をもつベテラン社員のいる部門への社内留学制度を実施したりしている企業もある。技をつなぐことの重要性を認識して各企業が取り組み始めた。 技能継承には、1. 訓練マニュアルの作成2. 指導方法の研究3. 工場でのマンツーマン指導 などが重要で、進んだ企業では、熟練技能者をビデオカメラで記録して、技能を伝承する仕組みや技能伝承活動を横串で眺め、活動報告をデータベース化する取り組みも実施されるようになった。産業界全般に技能伝承の取り組みが本格化したのは最近のことである。 技能伝承で重要なのは、技術面だけではなく、「やる気」や「働きがい」などについての伝承も必要である。3. 人づくりに必要なOJT OJTはオン・ザ・ジョブ・トレーニング(On the JobTraining)の略で、職場で実務をさせることで行う従業員の職業教育のことで、企業内教育手法の一種である。モノづくりの理屈、作り方を現場の社員に理解させる教育は怠ってはならない。攻めの技能伝承が必須となってきた。社内教育は日々の仕事の中で機能していた伝承システムでもある。 「企業は人なり」と言われ、企業にいかに優秀な人材を張り巡らせるかにある。それには、人材育成が重要となってくる。優れたものをつくろうとすれば優れた人をつくることが不可欠である。 技術の継承には現場で働きながら学ぶのが基本である。一朝一夕には、生きたワザは身につかない。職場に合った独自の工夫も必要である。 日本の強みである人材育成は、日本のよき時代に確立された。欧米に追いつけ追い越せの時代は、伸び盛りの企業には余力があり、どこの企業も社員教育、管理者教育には熱心だった。このような時代に人材育成の基本が確立された。 例えば、1. 入社時新人教育2. 中堅技術者教育3. 初級リーダー教育4. 管理者教育5. 各種研修会6. 社外講座(学会、研究会、セミナー)受講7. 技術交流会(関連会社、協力会社、外部企業、  海外工場)等の教育が実施された。 社員教育をしたからと言って、すぐ職場で活用できるとは限らない。目に見えた形ですぐに仕事に役立つとは限らない。「教育」は社員の能力アップの「ビタミン剤」である。「教育」は知らないことを教えて貰うことであり、教育で得た知識を体で覚え、本当に理解していくのが「訓練」である。繰り返しの訓練を積み、知識が本当の理解となる。 技能形成は、職場の先輩が後輩に仕事を教えるOJTにある。先輩の熟練工がテキストを作成して若手から中堅者を対象に教えている。 技能、技術の伝承ができなければ、日本の産業競争力は確実に落ちる。人材育成のテーマは技能伝承だけではない。グローバルに通用する人材の輩出に主眼を置いた育成も必要である。 つまり、国際舞台で通用する人材の育成も大きな課題となってきた。企業によっては、海外現場での対話能力を想定し、語学力の目標は英語検定試験「TOEIC」で550 点以上と定めている例もある。さらに、海外の工場でのモノづくりでリーダーシップをとれる人材が不可欠となってきている。 海外生産の成功の秘訣として次のような点が挙げられている。1. 経営トップが海外進出/海外生産について  確固たるビジョンと熱意をもっていること2. 海外生産を決定する前に、綿密な事前調査を実  施すること3. 小さく生んで、大きく育てること4. 優れた生産技術と技術を移転すること5. 海外生産に先立つ輸出実績があること6. 日本型経営を修正しての活用7. 経営現地化への企業努力が必要8. グローバルな経営管理体制の確立すること9. グローバルな視点で見ることのできる人材の派  遣 中小零細企業では、教育のための時間や人の確保さえままならない状態であり、それを補完する形で、自治体が講習会や熟練技能者の人材育成を手助けする試みも本格化している。 企業によっては、OB 社員を「教授」役にして、豊富な知識、優れた技術/技能を後輩に伝授する方法も確立して現場強化を図っている例もある。4. 熟練技術 近年は、経験豊富な技術者や技能者が製造の現場から去り、一方で製造業への若者の流入を抑えてきたことから技術/技能の伝承が困難な状況になっている。2007年以降、「団塊の世代」の定年を迎えたことにより大量に抜ける問題が発生した。 数年前までは鉄鋼業界は“鉄冷えの時代”を経験し、各社ともリストラを断行するとともに新規従業員の採用を控えていた。今や、製造現場は、限られたベテランによって何とかこなしているのが現状であり、技能の伝承が大きな課題となっている。鉄鋼業の好業績を背景に、定年退職者を再雇用する制度を2003 年3 月から新日本製鉄、JFEスチール等が導入した。鉄鋼業界の従事者は約13.8万人である。 造船業界においても従事者が現在、約8 万人で、1975 年の最盛期に比べると約3 分の1に激減している状態に加え、2004 年から2014 年までの10 年間で、現場の定年退職者は約3 万人となり、新規採用の見込みは2万人で、約1万人が不足することになり、人手不足で深刻な状態となった。造船業界では、現場作業者には、溶接工、ぎょう鉄工(船の外板などの曲線部を加工する技能)、塗装工など経験豊富な人材が必要とされている。 日本のモノづくりの基盤を揺るがしかねない恐れがでてきた。「モノづくり」の起点となる金型設計も熟練技術者の手順を分解してデータベース化し、現場経験の少ない若手技術者に対して、指針となるような仕組みが考え出されている。金型の熟練技能の手順を1,300に分解してデータベース化を試みた例がある。 自分の職場を超え、ほかの産業でモノづくり技術を教えられるような知識の体系化が検討されており、「モノづくりインストラクター」を育てるのをものづくり経営研究センターで検討されている。 優れた技術、製品を生み出すのは人の創意工夫であり、困難を打開するのは人間の知恵である。「頭をたたかれながら技能を仕込まれた世代」から「数字によって裏付けを求める世代」に、どうやって技能を伝承するかにある。5. 今後の展望 高度成長期には、“勤勉さとチームワーク”で、企業競争に打ち勝てたが、最近は、“知恵と想像力”を駆使しないと勝負に勝てなくなってきている。 日本企業が生き残るには、環境技術やナノテクノロジーなどの最先端技術を融合させて他国ではできないモノづくりが必要となってきた。付加価値の高いモノづくりのために、製造現場の力を鍛え、伸ばすことが重要となってきた。 また、世界的な知のネットワークを広げ、高水準の技術革新を維持しながらのモノづくりを実施し、ナンバーワン、オンリーワンの製品化づくりが重要となってきた。新しい技術立国の構築が重要となってきた。 1億人を対象とした国内市場から世界に向けてのグローバルな見地で世界の市場を目標にする必要があり、そのためにも発想の展開が必要である。日本の産業構造は、人口構造の変化で進路が変わってくる可能性がある。2050年には、日本の人口は1億人を割り、年、60万人の人口が減少していくため、人口増加を前提にしたビジネスモデルは成立しなくなる。日本は、人口構造の急速な成熟化で衰亡しないようにするために、移民かロボットかの選択の岐路に立たされるだろうとの見解もある。 しかし、人口は減少しても世帯数は、2015年の国勢調査では、一人で住む単独世帯は1,842万世帯(2005 年:1,300万世帯)となり、単独世帯数は増加している。今後、高齢者や単身者などの1?2人世帯が増えるためで、世帯数が増えれば需要が増えることになり、シングル向けや少人数世帯向けの商品が必要となってくる。高級な小型機器のニーズが、今後の焦点となる可能性がある。 モノづくり企業は、変化を拒んでいては生き残れない時代へ突入してきた。サナギがチョウになるように「変態」こそが次の成長となることを念頭にいれておくことが必要である。<参考資料>1)“モノづくりで切り開く日本の未来  <技能伝承で悩む企業-日本的チームワークに残された可  能性>”日刊工業新聞 2006-08-082)“ 新戦略を求めて 第3 章 グローバル化と日本” 朝日新聞  2006-08-283)“ものづくり技術伝承と発展” 讀賣新聞 2006-11-294)“ひと&ものづくり”日本経済新聞 2007-01-015) 北見昌郎、“製造業崩壊”<苦悩する工場とワーキングプア  > 東洋経済新報社6) “にっぽんぶらんど特集 -『現場力』の革新-”日刊工業新聞2007-05-31