ブックタイトルメカトロニクス3月号2020年
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メカトロニクス3月号2020年
MECHATRONICS 2020.3 45日本の産業構造の変化にともなう電子機器分野の話題商品を追う第21回 <裏の技術(2)>が使うデファクトスタンダードをいち早く確立したところが勝者となる。1-4.現場力 現場力を高めるには、「問題大好き人間」をつくることだと力説するのは、ローランド・ベルガー日本法人会長の遠藤功氏である。常に問題を探し回る人たちが欠かせない。さらに重要なのは、現場力の強弱は、経営者がどこまで真剣に現場を考えているかである。 日本のモノづくりの源泉は、現場のたゆまぬ努力によって培ってきたとも言われる。高い現場力とそれに裏打ちされた生産技術にモノづくりの強さの秘密が隠されている。a.ベルトコンベア方式からセル生産方式へ ベルトコンベア方式からセル生産方式へと、生産方法に変化を来たしてきた。セル生産方式には、作業者の多能工化に加え、熟練度の向上は勿論、作業効率化のためのツールの導入など必須となる。 一人で製品を組み立てる「セル生産方式」は、組み立て作業が大きな比重を占める製品に向いている。例えば、携帯電話、パソコン、AV 機器、OA 機器などである。 最近は、大きな機械の生産にもセル生産方式が採用されてきている。 工作機械工業界では、「工作機械の製造は宮大工」と言われる程、工程ごとに専門工が入れ替わり立ち代り作業して1 台を組み上げていた。 一工程に一日かけて生産をしていた。工程が多ければそれだけ日数がかかっていた。次の工程の専門工がふさがっていれば、そこで滞留することもあった。 これに挑戦したのが、セル生産方式で試みた森精機・伊賀事業所である。 必要な部品を探す時間ロスをなくすオートキャンプ場方式(キャンプ場のように区分けしたサイト内に組み立てに必要な部品をすべて揃えておく方式)を採用して、悪戦苦闘したものの、最終的には一人ですべての生産で達成感が味わえ、仕事が楽しく、やりがいのあるものとへと変わっていった。 さらにセル方式を進化させて、リレー方式を採用している企業もある。 一つ前の工程で作業が滞ると、後工程の担当者が前工程に移動して作業を手伝う方式で、各作業員が複数の工程を習熟しているために可能となるリレー生産方式である。以下、各企業で実践された事例を紹介する。a-1.ソニー セル生産方式とは、製品組み立ての大半を一人ないし数人でこなす生産方式で、セル生産方式の先駆けは、ソニー・幸田工場で実施された。 1992 年に100m 級のビデオカメラのベルトコンベア縮小に取り組み、1997 年にはすべて廃棄し、スペースは半分となり、ハンディーカムの工場で初めて採用し、その後、パソコンの生産などにも適用して拡大した。 このセル生産方式は、他の食品工業にも適用されるようになり、ベルトコンベア方式の生産が変わった。a-2.キヤノン 1997年末からセル生産方式に取り組み、製品在庫を半減し、省人化 は約1 万人、省スペース化は約38万m2の効果を生み出した。 生産工程の一部を自動化したことにより、生産の効率化を達成した。生産の一部はブラックボックス化し、日本での生産にこだわり、国内生産を増やしている。 デジカメは大分キヤノンで生産し、生産性は5年前の1.5 倍となっている。a-3.ローランド・ディー・ジー 屋外広告板の印刷などに使う業務用大型プリンタや彫刻機を生産するローランド・ディー・ジー(楽器メーカーのローランドが1981年に関連会社として設立)は、完全一人一台生産システム「デジタル屋台」を導入し、生産効率を飛躍的に高めることができた。 「デジタル屋台」は、製品の組み立てに必要なすべての部品や資材を組み立ての周辺に置き、一人で最終製品をパソコンの指示に従って、組み立てるもので、パソコンで工程をチェックしながら進むため、ミスがないという効果が現れた。 一人一台方式にたどり着き生産性は2倍となった。 同様な方法として各セルに設置したパソコン画面が作業を指示する「デジタルセル」と称した方式がJUKIで実施されている。 組み立てに不慣れな人でも対応ができるように、使用する工具と部品を作業直前にパソコン画面で指示する。 あやふやな作業は無くなり、誤った実装も防止ができる利点がある。a-4.ケンウッド 音響機器メーカーのケンウッドは、マレーシアで生産していた携帯用MDプレーヤの生産改革を実施して、山形ケンウッドで生産するようになった。原点に回帰してのモノづくりとなった。 現場の改善により「アジアに勝てる工場」づくりを写真3 表面実装機(FUJI)目指して改善した。セル生産方式でMDプレーヤは、82 秒に1 台ずつ完成するラインとなっている。 その後、中国から高級オーディオ製品も日本で生産するようになり、一人で172工程を担える熟練技術で「一人工房」で生産している。a-5.パトライト 2 万品目におよぶ製品の85%を3日以内に納品する多品種少量/短納期を戦略にした回転灯を生産する会社で、毎日のように形を変えるセル生産方式を採用している。 組み立てスタッフの7 割は女性パート社員で占め、パート社員の能力を引き出すために様々な工夫が実施されている。 現場の液晶画面には、仕様書にあるバーコードを読み取ると必要なチェック項目などが表示される仕組みとなっており、入社したてのパート社員でも対応できるようになっている。a-6.フェニックス電機 ランプ製造のフェニックス電機は、「工場回転ずし」方式を採用して工程途中の在庫を1/10に圧縮して利益をあげた。以前は工程が終了すると次の工程にバトンタッチする方式であった。この方式では在庫が滞留していた。「工場回転ずし」は、作り始めたばかりの製品と完成間近の製品が混じって流れる方式で、この方式では、工程間の在庫が少なくなった。 この方式は、中国の提携先の工場にも適用され効果を上げている。a-7.鈴鹿富士ゼロックス 富士ゼロックスは、事務機の生産台数の9割を中国の工場で生産するように移管を進めている。コスト競争力がより高い場所を選んで生産するのが富士ゼロックスの基本方針となっている。そのため、トヨタ生産方式による革新運動を開始し、セル生産方式を導入した。現在、それをさらに進化させてラインの中で作業が滞った人を支援したり、手が空いたら前工程に応援に出向くリレー方式を採用したり、光学系ユニットの組み立て工程を6 人で実施している。a-8.渋谷工業RPシステム森本工場 完全受注生産で複数システムを同時に組み立てる「セル生産」方式を採用している。部品点数が1 万点におよぶボトル充填システムに究極のセル生産と設計部門を直結し、柔軟に動く多能工の融合を実践している。組み立ては、基本的には1つのシステムに1つのチームを構成して対応するが、数ヵ月間、規模や進捗状況に応じて、1~20 人の多能工の作業員がチームを越えて柔軟に移動して対応する方式を採用している。 設計段階から工数や時間を管理するとともに、部品と部品をある程度組み立てる「部組み」にも番号をつけて原価管理をしている。<参考資料>1)トヨタ自動車 75 年史 https://www.toyota.co.jp/jpn/company/history/ 75years/text/entering_the_automotive_ business/chapter1/section4/item4.html2)(株)FUJI 未来を描く NXTR