ブックタイトルメカトロニクス12月号2019年

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概要

メカトロニクス12月号2019年

44 MECHATRONICS 2019.12   日本の産業構造の変化にともなう電子機器分野の話題商品を追う第18回 <EMSの台頭>連載  話題商品を製造するのに生産方式の違いについて、前回解説した。1社で全てを生産する一貫生産方式の“ 垂直統合生産”から、分担して生産する“水平分業生産”(あるいは“垂直分裂生産”)へと変化し、最終製品を販売する企業の複数から電子機器の生産を受託するサービスである“EMS”(Electronics Manufacuturing Service)が台頭してきた。 今回は、生産の中枢を担うEMSに焦点を当てて紹介する。1. 生産方式の違い 最初に、生産方式の違いについて解説したい。表1は、話題商品の電子機器を生産する上での生産方式の違いを体系化したものである。 初期の頃は、設計から組立てて製品化するまで全てを1社で実施する“垂直統合生産方式”が主流であった。グループ会社の関連会社から材料や部品などを調達するような例もあるが、これも含めて垂直統合生産の範疇として扱われる。 そのような生産方式の中で、需要増や人手対策に対応するために一部を地方の企業の協力会社に生産を委託する“下請け生産方式”が日本で行われるようになった。 下請けに出す場合に、相手先は系列化された場合が多い。つまり、委託生産を依頼する企業のみの製品しか生産しない方式である。 協力会社という下位の立場に置かれるが、技術や知的財産を自社の経営に活用し、企業の成長を図る可能性があるということで、日本で発展した。 次に、生産工場をもたなくてブランド名は異なるものを販売するために生産を委託する“OEM 生産方式”がある。 OEMは、Original Equipment Manufacturingまたは Original Equipment Manufacturer の略で、委託者のブランドで製品を生産すること、または生産するメーカーのことを示すものである。 日本語では「相手先(委託者)ブランド名製造」、「納入先(委託者)商標による受託製造」などと訳される。委託者が製品の詳細設計から製作や組み立て図面にいたるまで受託者へ支給し、場合によっては技術指導も行う場合もある。 委託者は、生産のための設備投資が最少または不要となるため、資金的負担が少ないという長所がある。 例えば、蛍光灯を製造しているA社という会社に、A 社のブランドで販売しているもののB 社から同じ蛍光灯の生産を委託され、生産ラインでは、B社の会社名が蛍光灯に印字され、B社からB社のブラン特定非営利活動法人 日本環境技術推進機構 青木 正光ドで販売されるのである。 蛍光灯を製造している企業に訪問して、その企業名でない競合メーカーの名前が蛍光灯の端に印字されていたのを見て、驚いて確認したらOEM 生産であることが判明したのである。 受託者側の長所としては、生産余力の活用ができるとともに、市場導入期においては自社技術水準の向上が見込まれることである。 さらに、市場成長期では量産効果の享受、市場成熟期・衰退期では、ある程度の量産維持などがあげられる。 次に、自社製品を製造していなく、あくまでも複数の企業から生産を受託するサービスで“EMS生産方式”があり、EMSはElectronic ManufacturingServiceの略で、電子機器の生産では、EMSでの生産が台頭してきている。2. EMSの台頭2-1 EMSビジネスの始まり メーカーは、一般的に製品の設計、試作、生産、配送、保守といった機能を担っているが、そうした一連のメーカー機能のうち、特に生産面をメーカーに代わって担うのが、“ 影のメーカー”とも呼ばれるEMS企業である。 EMSは、電子機器の製造を担うサービスのことであり、平たく言えば自社ブランドをもたず、メーカーから依頼のあった製品の生産を一手に引受け、製品販売、マーケティング以外の全ての工程を行う“ 隠れのメーカー”とも言われる企業のことである。 この受託製造サービス企業は、日本で実施されていた協力会社の仕組みを参考にして発展したと言われている。 1つの工場で、複数の企業の製品をラインごとに管理して生産するなど、特定企業に偏らず自主性も強いビジネス形態である。1) 1980 年代から1990 年代にかけて、米国西海岸のシリコンバレーでICT企業が相次いで台頭することとなった。 IBM、HPなどを中心にパソコンの生産合理化の一貫として自社で生産するのではなく、生産受託の専門会社、つまりEMS 企業に任せる方式が拡がっていった。 この分野では、SCI Systems が1961 年、Flextronics(現 Flex)が1965年、Jabil Circuitが1966年、Solectronが1977年、Sanminaが1980 年、Celesticaが1994 年にそれぞれ設立され、受託生産を手がけるようになり、その業態が認知され、1980 年代以降EMSビジネスが急成長した背景がある。Solectron 社は、1992 年に日本事務所を設立しており、日本にも早くから進出したEMS 企業である。 生産部門の合理化対策として、実装部門などの生産部門をEMSに売却することも起こり、EMSに各企業の生産工場が次第に集中するようになり、生産はEMSで実施する方式へと変わっていった。そして、生産機種もパソコンのみならずタブレット端末、携帯電話/スマホ、情報機器、通信機器、ゲーム機などの生産にも広がっていった。 このビジネスモデルは、米国のみならず世界規模で検討されるようになり、例えば技術力の高い台湾で開発・設計を行い、生産面ではコスト競争力の高い本土の中国で生産・組立を行うというビジネスモデルができ、「Chaiwan」(チャイワン)と呼ばれる分業体制が構築され、国を跨いでのビジネス協業が始まった。“Chaina”と“Taiwan” の2 国から由来する造語である。 世界最大手は鴻海精密工業(英語名 Foxconn)で、1988 年に中国に進出を果たし、チャイワンの典型であり、生産規模から圧倒的な競争力を生み出しているEMS のトップ企業である。 当時の受託製造サービス企業は、基板の組立てが主体であった。顧客である電子機器メーカー(日本ではセットメーカーと呼称される)の発注に応じて部品を実装した基板を製造するもので、新しい実装技術を開発するのは電子機器メーカーであり、受託製造サービス企業は技術開発の担い手ではなかった。 現在のEMS企業は、手掛ける領域が大きく広がっている。量産の基板に部品などを実装することは変わらないものの、量産前試作、基板設計、筐体設計、電子部品調達なども請け負っている形へと変化していった。 部品の一括購入により大量調達によるコスト低減が可能となり、実装の製造請負として日本でも活用されるようになった。 最大手のEMS 企業は、概念設計から製造までを請負、電子部品を独自に調達するとともに独自ブランドの製品をもたない巨大なEMSになってきており、“メガEMS”とも言われる。2-2 世界のEMS企業 世界のEMS企業のTop50における5年間の売上高推移を示すと表2 のようになる。 50 社の内、11 社が台湾系で、中でもFoxconnがずば抜けた売上高である。次に米国系及び日本系が、それぞれ9 社がつらねている。この売上高推移は、2018 年度にTop50としてランクされた企業を列挙した。 なお、この売上高推移は、毎年PRINTED CIRCUIT