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概要

メカトロニクス7月2017年

MECHATRONICS 2017.7 45ンカーボンが、どちらも海底堆積物中に長期間(数千年程度)貯留されるためである。 また、浅海域を活用した気候変動対策は、現場での適用に際して、社会的な受け入れや倫理面の障壁が小さく、かつ低コストで持続可能な技術であるといった長所がある。 さらに浅海域の活用により、気候変動の緩和だけでなく、他の生態系サービス(食料供給、水質浄化、観光レクリエーション、防災減災など)との両得(コベネフィット)も期待できる。 例えば、マングローブや海草藻類の植物体そのものが波や流れの作用を弱めるため、気候変動によって将来風波の規模や頻度が高まる場においては、これらの植生により海岸侵食が抑制される。波や流れの作用が弱まると、生態系内に浮遊懸濁物質が捕らえられ堆積することになる。そうして自然に海底がかさ上げされることで、気候変動による海面上昇への対策にもなる。(3)「パリ協定」で言及の国も 高度成長期にコンクリートで造られた海岸施設は次々と老朽化し、更新が必要となっている。海岸施設の維持管理を持続可能とするためには、施設の長寿命化やコスト縮減などの対策が必要となる。 このような背景から、近年、人工構造物(グレーインフラ)だけでなく自然(グリーンインフラ)も活用した海岸防御といった考え方が着目され始めた。自然の生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR、Ecosystem-based Disaster Risk Reduction) は、気候変動への適応策としても注目されている。 2020年以降の新たな法的拘束力を持つ枠組みとして、2015年に開かれた気候変動枠組条約の第21回締約国会議(COP21)で採択された「パリ協定」では、各国が温室効果ガスの排出削減に関して約束草案(NDC、Nationally Determined Contributions)を掲げ、相互に検証し合う仕組み(プレッジ&レビュー方式)が基本方針となっている。 実際にNDCで、ブルーカーボンあるいは浅海域生態系の活用について具体的に言及している国はどのくらいあるのか、2016年に調査が実施された。 その結果、浅海域あるいはブルーカーボンの活用に言及している国は、緩和効果に対して151ヵ国中28ヵ国(19%)、緩和効果に対して151ヵ国中59ヵ国(39%)であった。残念なことに、日本はいずれにも言及していなかった。 諸外国が予想外に早く、浅海域やブルーカーボンを活用した気候変動の緩和や適応に取り組んでいることが分かる。日本も世界第6位の長い海岸線を活かして、浅海域やブルーカーボンの活用を一刻も早く気候変動の手段としてNDCに明記すべきである。■横浜市の「ブルーカーボン」事業 横浜市は、国連環境計画が2009年に提唱した概念を取り入れ、“ 海洋”を舞台とした新しい脱温暖化プロジェクト「横浜ブルーカーボン」事業を2011年度より新しい脱温暖化プロジェクトとして開始した。(2017年5月18日記)<参考資料>1)Nelleman、 C.、et al:「Blue Carbon.A rapid responseassesment」.、UNEP、GRID-Arendal、 Norway、 2009、80pp2)日経エコロジー編集:「環境・CSR キーワード事典」日経BP 社(2016.12)3)戸谷洋子:「<港湾用語の基礎知識3>ブルーカーボン」“((公社)日本港湾協会機関誌)”p46(2012年6 月号)4)(独)港湾空港技術研究所 沿岸環境研究領域 沿岸環境研究チーム:「沿岸域のブルーカーボンと大気中CO2の吸収との関連性に関する現地調査と解析」港湾空港技術研究所報告、Vol.052、No.1(2013年3月)5)桑江朝比呂:「ブルーカーボン:地球温暖化の抑制に海の力を」グリーン・パワー((公財)森林文化協会・機関誌)、通巻461 号、p6-7(2017)6)桑江朝比呂:“(論点)「海の森」の力見直したい”読売新聞(2016)げられる。すなわち、沿岸域が温暖化対策に貢献することを示している。 さらに、陸上の森林におけるCO2吸収に対する便益の計上と同様に、沿岸域における生態系の保全や再生のための資金源の獲得に繋がることが期待される。【キーワード】 沿岸植生域の再生・保全、CO2吸収、炭素隔離・貯留、海草場■ブルーカーボン研究会の新設(1)二組織による新研究会発足の共同発表 (一財)みなと総合研究財団と(一財)港湾空港総合技術センターは、「ブルーカーボン研究会」を2017年2月に設立することを1月に発表した。 今回新設される研究会は、学識経験者及び関係団体等で構成され、藻場の分布等の現状把握や藻場等の拡大に向けた社会的な枠組みの構築等を目的としており、①沿岸域における藻場の分布等の現状把握②藻場等の拡大に向けた課題の整理③ブルーカーボンの評価手法の検討④藻場等の拡大に向けた社会的な枠組みの検討などを行う。 なお、その設立を記念して、2017年2月10日に、国土交通省および水産庁の関係部局からの行政報告や研究会委員による基調講演からなる設立記念講演会が開催された。(2)設立の趣旨 1992年に採択された国連気候変動枠組条約に基づき、1995 年より毎年、締約国会議(COP)が開催されている。2015年11月~12月に開催されたCOP21においては、「パリ協定」が採択され、2016年11月に発効した。 国内では、「パリ協定」等を見据え、2016年5月に「地球温暖化対策計画」が閣議決定されており、同計画では目標として2030年度における温室効果ガス26%減(2013年度比)が掲げられている。 ブルーカーボンについては、2009年に国連環境計画の報告書「BLUE CARBON」の中で、海洋において海草等により吸収・固定される炭素として、新たに命名される等、近年、ブルーカーボンによるCO2削減効果が、地球温暖化対策の新しい可能性として注目されており、国内外でブルーカーボンの議論が活発化している。 我が国の海域においては、浚渫土砂等の有効活用や官民連携による藻場・浅場の造成等の取り組みが行われてきた。パリ協定の発効等を踏まえ、海洋国家である我が国においては、ブルーカーボンの観点からもこれらの取り組みがより一層重要となる。 このような背景のもと、学識経験者及び関係団体等で構成される「ブルーカーボン研究会」を設立することとされ、あわせて設立記念講演会が以下のように開催された。 同研究会では、ブルーカーボンに関する課題を明らかにしつつ、藻場等の拡大に向けた持続的な取り組みを行うための枠組みの構築を図るとのことである。(3)ブルーカーボン研究会の概要 地球温暖化対策及び環境保全の観点から、藻場の分布等の現状把握や藻場等の拡大に向けた社会的な枠組みの構築等を目的とする。①検討内容・沿岸域における藻場の分布等の現状把握・藻場等の拡大に向けた課題の整理・ブルーカーボンの評価手法の検討・藻場等の拡大に向けた社会的な枠組みの検討・その他の課題②研究会の構成(委員)・(国研)海上・港湾・航空技術研究所 港湾空港技術研究所 沿岸環境研究グループ長・国土交通省 国土技術政策総合研究所 沿岸海洋・防災研究部 海洋環境研究室長・(国研)水産研究・教育機構 瀬戸内海区水産研究所 生産環境部 藻場生産グループ長・(一財)海域環境研究機構 理事長・三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株) 経営企画部 新事業開発室 副主任研究員・NPO法人 海辺つくり研究会 理事・事務局長・(一財)沿岸技術研究センター 研究主幹・(一社)海洋調査協会 専務理事・(一財)港湾空港総合技術センター 業務執行理事・(一財)国際臨海開発研究センター 研究主幹・(一社)水底質浄化技術協会 専務理事・(一社)日本埋立浚渫協会 企画部長・(公社)日本港湾協会 研究主幹・(一財)みなと総合研究財団 業務執行理事<オブザーバー>・国土交通省 港湾局 海洋・環境課長・水産庁 漁港漁場整備部 整備課長<事務局>・(一財)みなと総合研究財団・(一財)港湾空港総合技術センター(備考)現在の「港湾空港技術研究所」は、以下のような所所管と名称の変更を経ている。・1962 年4 月~:「運輸省港湾技術研究所」・2001 年1 月~:「国土交通省港湾技術研究所」・2001 年4 月~:「独立行政法人港湾空港技術研究所」・2015 年4 月~:「国立研究開発法人港湾空港技術研究所」・2016 年4 月~:他の研究所と統合して「国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所」の一部となる。■“ブルーカーボン:地球温暖化の抑制に 海の力を” 最近の紹介情報としては、ブルーカーボンに関する解説が、(公財)森林文化協会の機関誌の最新号に掲載されたので、その抜粋を以下に紹介する5)。執筆者の桑江朝比呂(くわえ ともひろ)氏は、国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所 港湾空港技術研究所沿岸環境研究グループ長で、ブルーカーボン研究会の座長でもあり、新聞にもトピックスのニュースとして紹介されている6)。(1)はじめに 海洋生物によって大気中の二酸化炭素(CO2)が取り込まれ、海に貯留された炭素のことを、2009年に国連環境計画(UNEP)は「ブルーカーボン」と名付けた。 陸や海は、地球における炭素の主要な貯蔵庫となっているが、とりわけ亜熱帯の陸と海の境界に発達するマングローブ林では、単位面積当たりの炭素貯留量が多く、貯留速度も高い。実際にマングローブ林の土壌を調べると、濃密に発達した根や堆積した有機物の層が確認でき、土壌中に炭素が高濃度に蓄積されていることがわかる。 また、アマモなどの海草が生育する砂泥性の海草藻場や塩性湿地も、年間炭素貯留速度は高い。 しかしながら、ブルーカーボンの総量やブルーカーボンの貯留速度、あるいは浅海と大気との間のCO2ガスの出入りについては、まだ知見が限られているため、現在世界中で調査研究が精力的に進められている。(2)重要な浅海域 森林など陸上でCO2が取り込まれて貯留された炭素は 「グリーンカーボン」と呼ばれている。森と海は川を通じて水域としてつながっているため、陸域から流れ出たグリーンカーボンの一部は、河口付近の浅い海域に捕らえられ貯留される。つまり、森?川ー海の健全な連環により、浅海域の海草藻場やマングローブ林では、ブルーカーボンやグリーンカーボンが貯留され気候変動の緩和に役立っていることがわかる。 陸と比較して浅海域が炭素貯蔵庫として重要なのは、海由来のブルーカーボン、そして陸由来のグリー