ブックタイトルメカトロニクス11月号2016年
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メカトロニクス11月号2016年
52 MECHATRONICS 2016.11日本産業洗浄協議会名誉理事 相模環境リサーチセンター 所長 小田切 力「2016年版環境白書」が取り上げたトピックス(3)~2030アジェンダ(1)~【第176回】■「2030アジェンダ」のキーワード 「2030アジェンダ」に関係する3つのキーワード、すなわち、①持続可能な開発②ミレニアム開発目標③持続可能な開発のための2030アジェンダについて、同書に記された語句説明を最初に紹介する。(1)“持続可能な開発”(Sustainable Development) 「環境と開発に関する世界委員会」(委員長:ブルントラント・ノルウェー首相(当時))が1987 年に公表した報告書「我ら共有の未来(Our CommonFuture)」の中心的な考え方として取り上げた概念で、「将来の世代のニーズを満たしつつ、現在の世代のニーズも満たす開発」と定義されている。 “Sustainable(持続可能な)”、“Sustainability(持続可能性)”の語句が地球環境問題の議論で現在広く使われており、“Sustainable Development Goals(SDGs)、持続可能な開発目標”、“SustainabilityScience、サステイナビリティ学”“持続可能な農業の促進”、“持続可能な森林管理”、“水と衛生の利用可能性と持続可能な管理”、“持続可能な生産消費形態”などがその一例である。(2)「ミレニアム開発目標」(Millennium Development Goals、MDGs) MDGsは、開発分野における国際社会共通の目標で、2000年9月にニューヨークで開催された国連ミレニアム・サミットで採択された国連ミレニアム宣言を基にまとめられた。 MDGsは、極度の貧困と飢餓の撲滅など、2015年までに達成すべき8つの目標を掲げ、達成期限となる2015年までに一定の成果をあげた。その内容は後継となる「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(「2030アジェンダ」)に引きつがれている。(3)「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(The 2030 Agenda for SustainableDevelopment、略称:The 2030 Agenda) 「リオ+20」で政府間交渉プロセスの立ち上げが合意され、2015年9月の国連サミットで採択された。持続可能な開発目標(SDGs)を中核とする、持続可能な開発の3つの側面(経済・社会・環境)に統合的に対応する。2016年以降2030年までの国際目標。先進国・途上国の別なく、全ての国が取り組むという普遍性が最大の特徴。(4)「2016年版環境白書」で取り上げられた「2030アジェンダ」 「2016年版環境白書」の中で“2030アジェンダ”問題を取り上げた部分は、“パート3 主な課題に関する取組の進展”、“第1章 国際的な枠組みの進展”、“第1節 2030アジェンダ~持続可能な開発の新たな枠組み”であり、その中の目次構成は<図表6>の通りである。■“持続可能な開発”の概念の誕生と進化 同白書では、“持続可能な開発”の概念は、1987年に国連の「環境と開発に関する世界委員会」が公表した報告書「我ら共有の未来(Our Common Future)」がきっかけとなり広く一般に認識されるようになったと言われている。”と説明されている。 この報告書が、国際連合により地球環境問題を大きく取り上げられた活動の一つの節目となったことは、その後につづく地球環境保護活動の展開に大きく影響したことになる。以下は、国際連合が関わって地球環境保護と“持続可能な開発”の議論が行われた活動の経緯である。(1)1972年:国連主催の最初の環境国際会議 環境問題に国際的に取り組むことをテーマとした最初の国際会議は、1972 年6 月に、ストックホルム(スウェーデン)で開催された「国連人間環境会議」(United Nations Conference on the HumanEnvironment)であった。この会議で、環境問題に関わる国連の新機構の創設が合意され、「人間環境宣言」を採択2)。・人間環境宣言(Declaration of the UnitedNations Conference on the HumanEnvironment、別称:ストックホルム宣言、Stockholm Declaration) 7項目の共通見解(前文)と、26項目の原則により構成。環境問題に取り組む際の原則を明らかにし、“人間環境の保全と向上に関し、世界の人々を励まし、導くため共通の見解と原則”を表明して、環境問題が人類に対する脅威であり、国際的に取り組むべきことと明言している。また、現在および将来の世代のための人間環境擁護と向上が人類にとって至上の目標、すなわち平和と世界的な経済社会発展の基本的かつ確立した目標であるとし、環境や自然資源の保護責任、環境教育の必要性、人類と環境の核兵器等による大量破壊からの回避などを提示している。(2)1972年:国連における環境問題組織の創設 国連人間環境会議で採択された行動計画を実施するために、国際連合内の新しい組織として「国連環境計画(United Nations EnnvironmentalProgramme, UNEP )が設置された。それまで既存の国連諸機関が実施していていた環境に対する活動を総合的に調整管理する機関であり、事務局本部はナイロビ(ケニア)に設置された(ケニア共和国の初代大統領ジョモ・ケニヤッタ(Jomo Kenyatta)の強い希望によるとのこと)。(3)1980年:「世界保全戦略」の発表 1980年に国際自然保護連合(IUCN)注13)が国連環境計画(UNEP)の委託により、世界自然基金(WWF)注14)などの協力を得て1980年に「世界保全戦略(Strategy for World Conservation)」を発表した(日本語版は「世界環境保全戦略」と題されている4)。)注13)国際自然保護連合(通称):International Union forConservation of Nature and Natural Resources、IUCN、自然及び天然資源の保全に関する国際同盟(通称:国際自然保護連合)注14)世界自然保護基金:World Wide Fund for Nature、WWF、(1986年まではWorld Wildlife Fund) 副題は「いかにして世界を救うか(How to Savethe World)」となっており、国連人間環境会議(1972年)の人間環境宣言や行動計画に示された原理を発展させ、具体的な行動指針として展開している。 本報告書は、人類生存のための自然資源の保全として、「持続可能な開発(Sustainable Development)」の概念を初めて公表したものとしても知られている。また、遺伝資源の保全として、生息域内保全(insituconservation)注15)と生息域外保全(ex-situconservation)注16)の概念を提示し、その後の生物多様性条約などに影響を及ぼした(1991年にその改訂版が公表された。)注15)生息域内保全:保全対象とする種や個体群を、その本来の生息地で、必要な環境要素やその規模を確保することで、保全し、絶滅を避けようとする考え方。「生物多様性条約」では、生物多様性の保全は、生態系や自然の生息地を保全する、「生息域内保全」を原則とし(第8条)、その補完的措置として「生息域外保全」を位置づけている(第9条)。また、生息域内保全を達成するための手段として、適切な保護地域システムの配置とその管理、劣化した生態系の修復・復元と絶滅の危機にある種の回復、移入種の防止・制御、先住民などの伝統的生活や知恵の尊重などを掲げている。注16)生息域外保全:本来の生息地では存続できない生物の種、あるいは個体群(遺伝的なグループ)など生物多様性の構成要素を、動物園・植物園など自然の生息地の外において人工増殖を図り、本来の生息地を再生した上で野生回復を図ろうとする方法(保護増殖事業)。本来の生息地の中での保全を図る「生息域内保全」を優先するが、その補完的措置として取られる手段で、生物の種、あるいは個体群を保全する際の代償的手段ともいえる(生物多様性条約第9条)。野生回復には生息地の復元が必須条件となるが、そのためには長期的かつ多方面にわたる検討と計画が求められる。このような野生回復は生態系の回復の象徴と 「2030アジェンダ」については、「2016年版環境白書」の冒頭で以下のような説明が加えられている。 “国連総会では、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成を踏まえ、2030年(平成42年)に向けたより包括的で新たな世界共通の目標として、持続可能な開発目標(SDGs)を中核とする「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」も採択された。 同書では“持続可能な開発”に関して、40数年にわたる議論と決定の経緯が詳細に紹介されている。ここでは、その説明の理解をさらに深めるよう、年代を追って関連トピックスの想起を容易にするために、環境問題の国際的会合の開催と発表された宣言・報告書等を英語を併記して紹介する。<図表6>「2016年版環境白書」における“2030アジェンダ”関係事項の目次構成1)第1節 2030アジェンダ~持続可能な開発の新たな枠組み1.MDGsの達成状況とその国際的評価(1)MDGsの概要と各目標の達成状況(2)MDGsの限界と課題2.2030アジェンダに至る 国際的な議論の経緯(1)リオ+20で示された方向性(2)2030アジェンダ採択に至る歩み(3)我が国のプロセスへの貢献3.2030アジェンダの内容(1)SDGsの概要と環境との関わり(2)各国及び様々なステークホルダーに期待されていること4.2030アジェンダを受けた国内外の動き(1)国際的な動き(2)国内における動き5.今後の我が国の取組