ブックタイトルメカトロニクス9月号2016年
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メカトロニクス9月号2016年
MECHATRONICS 2016.9 41 前回に続き、有田工場の様々な取り組みをご紹介する。1. 「発注カンバン」による副資材の管理 副資材もすべて「発注カンバン」で管理している。写真1ではわかりづらいが、上段と下段には同じ資材が入っており、どちらかの段の在庫がなくなり、もう片方の段の資材から取る必要が生じたら、棚の各部に下がっている「発注カンバン」を発注の担当部署持っていき、追加注文してもらわなければならない。 社内で使われる文具用品についても「発注カンバン」方式による在庫管理をしている。 必要があれば文房具置き場から新しいものを持っていくのであるが、各物品にはカンバンがつけられており、最後の一個が取られたら「発注中」の札が現れる。と同時に、取った人は発注担当者にカンバンをもっていく。 カンバンにはそれぞれ「単価」と1 回あたりの「注文数」が記されている。たとえば、「5 本」と書いてあったら、5本以上注文されることはない。このように、注文数を最小限にすることで、現場でのダブつき、すなわち無駄の削減に努めているのである。 このような体制の周知徹底によって、不要な注文が減り、コストが抑えられている、という。各物品の単価がいくらであるかをわかるようにする「見える化」も、現場の作業員の意識を高めるのに効果的であるそうだ。 ホッチキスなどの共用品については、以前は各個人が持っていたそうであるが、使う頻度はそれほど高くないため、共用備品置き場を設けている。2. リフロー工程から検査工程へ さて、マウンタによって部品が実装されると、次に、リフロー装置ではんだ付けが行われる。この工場では基板に合わせてコンベアの搬送速度を調整することで、設定温度を変化させず安定した熱量を供給することで品質を維持し、機種切り替えロスを削減するように検討している。 完成した基板は、認定を受けたオペレーターが自動X線検査装置、基板外観点検機(検査機)によって徹底的にチェックしている。X 線検査については基板をラインアウトし、BGAについて抜き取り検査を実施している。検査基準はいずれも非常にタイトなものとしている。 生産は基本的に小ロットであるため、検査工程で不具合が分かった時にはもう実装工程が終わっていることがほとんどである。そこで、「不良が出がちな個所」をPDF 化し、特に注意するように申し送りをしているのだという。そして外観検査を経た後、基板分割を経て、組み立て工程に送られる。これは面実装のレベルへの自信の高さの表れである。3. 独自の装置を用いた基板分割 検査に合格した基板は、基板分割工程に送られる。基板はルータで切断しているが、使用される装置は本社 生産技術課で設計製作されたもの。これを自作したのは、導入当時、理想的なものがなかったから、であるそうだ。 当時市販されていたルータは、分割する機構が1 個口しかなく、この方式だと、オペレーターが基板をセットする→装置が分割する→分割された基板をオペレーターが外す……という一連の流れの中で、オペレーターによる基板の着脱の動作中に装置が待機状態となり、その時間がもったいないのではないか、と考えたのである。 そこで、基板を左右の2個口に置くことができる装置を開発し、基板のセット→装置による分割→分割が終わった基板の取り外し……が2個分、並行して行え、装置の待機時間がないようにしたのである。しかも作業者は現場でこの装置を2 台、全4個口をノンストップで操作している。 オペレーターは、「置く」動作をする際にどうしてもゆっくりとした動きになってしまいがちなのだそうだが、こういう機構にすることによって、「機械を止めないように」という意識が自然と働くようになるという。 なお、これまでもいくつかご紹介したように、同社ではあらゆる装置を自作している。 面実装フロアでは、静電気に起因する不良をなくすためにイオナイザを設置しており、併せて、静電気が本当に除去されているかどうかを確認するために基板が止まっているところにセンサをつけ、その状況を監視している(写真2)。 基準は0.1kV 以内で、それ以上に行ってしまった場合はブザーがなるようになっている。センサは既存のものを使用しているが、ブザー音が鳴るシステムは自作したものである。このブザーで知らせる仕組みは、マウンタの部品切れなどについても採用しており、純正の装置を連動するように改造しているのである。4. 完成した基板を組み立て工程へ 同工場では、次の工程への搬送にあたって、「後工程引き取り方式」を採用している。実装工程がすべて完了したものから順次、次のラインに流していくのではなく、「何時何分にどの基板が入るか」という情報をあらかじめPCを通じて告知しておき、それに合わせて、一括して無人の搬送台車に乗せるようにしている。付加価値の発生しない搬送作業などについては、徹底した自動化を図っている。 面実装工程を経た「完成基板」が送られる組み立て工程は、有田工場だけでなく、紀の川工場にもあり、紀の川工場には翌日の午前中に必要なものがその日のうちに送られる。 その際は、基板を分割した形で、通い箱に入れて送っている(写真3)。輸送時に入れられるこの通い箱は当初、間仕切りが硬いもので、万が一、部品がその部分にぶつかるとクラックになるおそれがあった。 この問題を解消できないか、と考えていたところ、ある従業員から、「間仕切り部に静電マットを貼ったらいいのではないか」という提案があり、これを採用したという。5. 作業者の熟練度と意識の高さ 今回、同工場の面実装フロアを拝見して感じたのは作業員の熟練度である。工場内には「ものづくり道場」という研修室を設けており、はんだ付けの不良事例の写真を示しながら、新人を教育しているが、熟練度のレベルの向上のためにはやはり、現場に付いて学習するのが一番効果的であるという。 一つのラインで約20 機種ぐらいが流れており、1ヶ月で1 周、2ヶ月目でやっと2 週目が回ってくる。そんなことから1 人前になるためには、やはり半年ぐらいを要するそうである。 また、構内では迅速に動くことが求められており、歩行時間は10mを7 秒以内という目安を掲示している。そこで、廊下の一部に「歩行速度監視装置」を設置し、規定時間を超えたら警告音が鳴るようにしている(写真4)。ただ、これは厳密なものではなく、「常にそのような意識を持って行動するように」という啓蒙的なものであり、同時に、同社の「遊び心」を表すものでもあるという。 このようなところからも、常に高い意識を求める同社の姿勢とそれに応える作業者の取り組みが伺えた。 さて次回は、同社の組み立て工程を専門に担う紀ノ川工場における取り組みをご紹介する。独自の生産ラインを構築し、高い生産性と高品質な製品づくりを実現する、和歌山アイコムの取り組み(その⑥)写真1 発注カンバン方式が採用された副資材置き場 写真2 静電気の状況を監視している 写真4 歩行速度監視装置が設置された廊下写真3 通い箱工場レポート