ブックタイトルメカトロニクス6月号2016年
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メカトロニクス6月号2016年
42 MECHATRONICS 2016.6日本産業洗浄協議会専務理事 相模環境リサーチセンター 所長 小田切 力人口減少・高齢化と環境問題~活力あふれる「ビンテージ・ソサエティ」の実現~【第171回】■環境白書が指摘する超高齢化社会の問題点 まえがきで紹介した「2015年版環境白書」では、高齢化社会の問題については、以下のような指摘が示されている。(1)我が国における問題点 我が国は現在、世界に先駆けて人口減少・超高齢社会を迎えている。さらに、経済のグローバル化の進展に伴う社会経済情勢の変化や財政制約の中で、様々な経済・社会的課題に直面している。特に、過疎化が進行する地域、脆弱な産業基盤を有する地域においては、地方自治体の財政力の弱さも相まって、その状況は深刻なものとなっている。そこで、急速な少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持していくべく、我が国では2014 年に「まち・ひと・しごと創生法」注2)が成立し、地域活性化に向けた施策が行われている。注2)まち・ひと・しごと創生法:2014 年11 月21 日に平成26 年法律第136号として成立。その第1条(目的)には、以下のようにうたわれている。“我が国における急速な少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持していくために、まち・ひと・しごと創生に関する施策を総合的かつ計画的に実施する。(2)人口減少・高齢化の状況 我が国は、2008年をピークに人口減少に転じた。出生数は1975年から減少傾向にあり、2013年の合計特殊出生率注3)は1.43となっている。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、我が国の総人口は2060年に8,674万人まで、生産年齢人口(15~64歳)注4)は4,418万人まで減少する一方で、65歳以上の高齢者人口は3,464万人と増加し、総人口に占める割合は39.9%に上ることが予想されている。 また、2025年には、特に人口規模が大きい世代である「団塊の世代」注5)が、後期高齢者である75歳以上を迎え、後期高齢者人口は2,179万人に上り、総人口に占める割合は18 %になると予想されている。注3)合計特殊出生率:(total fertility rate、TFR)。一人の女性が一生に産む子供の平均数を示す。注4)生産年齢人口:working age population。生産活動に従事しうる年齢の人口。日本では15 歳から64 歳までを指す。注5)団塊の世代:厚生労働省は、その白書で団塊の世代について、1947 年(昭和22 年)~1949 年( 昭和24 年) 生まれとしている。(3)高齢化による環境負荷の増大 我が国においては、前節で述べたとおり人口減少が予想されており、エネルギー消費に伴う温室効果ガスの排出、廃棄物の排出など、環境負荷が減少することが予想される。しかし、ライフスタイルの変化や高齢化等によって、主に家庭部門における一人当たりの環境負荷は増す可能性がある。■「活力あふれる『超高齢化社会』の実現に向けた取組に係る研究会」 経済産業省の商務情報政策局は、「活力あふれる『超高齢化社会』の実現に向けた取組に係る研究会」を設置し、2015 年10 月28 日に第1 回会合を開催した。以下は同研究会設置の趣旨と検討事項である。(1)研究会の趣旨①近年我が国では急速な勢いで少子高齢化が進んでおり、社会保障費の増加による国の財政負担や、地域力の低下による独居高齢者の増加・孤独死などについて、改善に向けた早急な対応が必要とされる問題も顕在化している。また、他国においても、将来深刻な高齢化が進むと見込まれる中で、こうした状況は、日本のみならず世界の将来の絵姿ともいえる。②従来、高齢化社会に関する議論は65 歳を基準に生産力人口の確保という文脈で行われてきたため、65歳からの人生設計に関しては政策的に手つかずの面もあった。しかし、高齢化という事象は国民一人一人に共通に訪れるものであって、65歳以降の人生設計は国民全員に共通する課題であり、本問題の解決なくしては「国民が望まない不幸な高齢化社会」を招来する懸念がある。③他方、高齢化社会の先頭を走る日本だからこそ、高齢者自身が生き生きと暮らし、高齢者が持つ豊富な人生経験・知識と潤沢な知恵・感性・文化を若者世代に共有・継承できる社会モデルを創出し実現する世界の先駆者となりうる。そして、2020 年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催に伴い、世界の注目が日本に集まるタイミングを好機として、活力あふれる高齢化社会づくりに成功した日本の姿と、希望ある未来の社会像を世界に提示していく。④本研究会では、活力あふれる超高齢化社会の実現に向け、高齢者の「自立」、「つながり」、「多様な生き方」といった点を踏まえ、理想とするライフスタイル、それを支える技術や社会システムにより変革を促す方策等を検討し、提言・情報発信をしていく。(2)検討事項①目指すべき「超高齢化社会」の姿②超高齢化社会を支えるIoT注6)の可能性、技術・製品・サービス、社会参画の在り方③その実現のためのアクションプラン(技術革新、社会・制度変革、その他政府が取り組むべき諸施策)のとりまとめ注6)IoT:(Internet of Things、物のインターネット)。さまざまな物がインターネットに接続され、情報交換することにより相互に制御する仕組み。■研究会による報告書の作成 この研究会(「活力あふれる超高齢化社会の実現に向けた取組に係る研究会」)は、第1 回会合を2015年10 月28 日に、最終会合(第5 回)を2016年3月9日におこなって、最終報告書を同3月30日に公表した。 研究会の名称に関しては、第2回会合から“超高齢化社会”を“ビンテージ・ソサエティ”と言い換えており、最終報告書は、本題を「活力あふれる『ビンテージ・ソサエティ』の実現に向けて」とし、また、同報告書の副題には、“高齢者が、多世代に緩やかに交わりながら、「社会の負担」になるのではなく、むしろ「社会の力」となっている社会。それが「ビンテージ・ソサエティ」注7)。”とうたっている。注7)ビンテージ(ヴィンテージ):vintage 。ヴィンテージとはぶどうの「収穫期」や「収穫年度」のことを意味するが、転じて年による作柄のこともヴィンテージと呼ぶようになり、よい年のワインを「ヴィンテージ・ワイン」とか「ヴィンテージもの」と呼んでいる。一般的には名品・一級品を示す用語として用いられ、「年代物の逸品」、「特定の年に作られた良いもの」を指す場合がある。■本研究会の関係者 本報告書の作成に関わったメンバーと関係者は以下の通りであった。(1)研究会委員・秋山 弘子:東京大学高齢社会総合研究機構特任教授※座長・赤池 学:(株)ユニバーサルデザイン総合研究所所長、科学技術ジャーナリスト・大内 尉義:国家公務員共済組合連合会虎の門病院院長・久保 律子:NPO法人シニアSOHO普及サロン三鷹代表・野田 稔:明治大学大学院グローバルビジネス研究科教授、(株)リクルートワークス研究所特任研究顧問、社会人材学舎塾長・廣瀬 通孝:東京大学大学院教授・古田 秘馬:(株)UMARI 代表取締役・村田 裕之:村田アソシエイツ(株)代表、東北大学特任教授エイジング社会研究センター代表理事(2)研究会でプレゼンテーションを行った企業日本電気(株)、日本ユニシス(株)、富士通(株)、ヘルスデータ・プラットフォーム(株)、クラブツーリズム(株)、パナソニック(株)、(株)バンダイナムコホールディングス、(株)サイーキュレーション、東京急行電鉄(株)(3)事務局・経済産業省:商務情報政策局 サービス政策課、医療・福祉機器産業室・(株)電通(4)オブザーバー・経済産業省:大臣官房政策審議室、ヘルスケア産業課・厚生労働省:社会保障担当参事官室 高齢化社会にまつわる諸問題は、人口減少の問題とセットとなって環境問題の一つのテーマとして取り上げられる時代になっている。昨年(2015年)の環境白書1)では、“人口減少・高齢化と環境問題”と題した部分を本文の中に設けて、その問題点について数ページを割いて説明を加えている注1)。注1)同白書の“第1 部 総合的な施策等に関する報告、第1 章 環境・経済・社会の現状と、持続可能な地域づくりに向けて、第2 節 社会・経済の変化と環境との関わり、1. 人口減少・高齢化と環境問題”(15~ 18 ページ)を参照。 来るべき超高齢化社会に対応するための検討について、経済産業省は、2015年10月に同省の商務情報政策局が事務局となって「活力あふれる『超高齢化社会』の実現に向けた取組に係る研究会」を立ち上げ、その最終報告書がこのほど発表された2)。今回はその超高齢化社会の問題に係る報告書を紹介する。