ブックタイトルメカトロニクス5月号2016年
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メカトロニクス5月号2016年
42 MECHATRONICS 2016.5日本産業洗浄協議会専務理事 相模環境リサーチセンター 所長 小田切 力水循環基本法~いまこそ考えよう。みんなの水と未来~【第170回】■水循環基本法とは 水循環基本法が環境省編集の「環境白書」にはじめて紹介されたのは、2015年版(平成27年版)であるが、同書の「資料:語句説明」には、以下のように説明されている。 “国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにし、並びに水循環に関する基本的な計画の策定その他水循環に関する施策の基本となる事項を定めるとともに、水循環政策本部を設置することにより、水循環に関する施策を総合的かつ一体的に推進し、もって健全な水循環を維持し、又は回復させ、我が国の経済社会の健全な発展及び国民生活の安定向上に寄与することを目的とする法律。平成26年7月1日施行。”■水循環基本法成立の背景 「水循環基本法」が2014 年3月27日の衆議院本会議において、全会一致で可決/成立し、7月1に施行された。この法律は、日本国民にとって大切な共有の資源である「水」を守るとともに、水源となる「森林」を守る意味をもっているといわれている。実は、2000 年代後半から、おもに中国資本による日本国内の森林買収の動きが目立つようになり、問題視されていた。水資源が乏しい中国の大都市では、水不足が深刻な問題であり、土地ごと買収された森林は水源地を含んでいることが多く、無秩序な森林伐採や水資源の開発が行われるのではないかと懸念される議論があった。 林野庁の発表によると、2006 年から2012 年までの7年間に、外国資本に買収された森林の面積は約801ヘクタールにも及んでいるとのことである。最も多いのは北海道で732ヘクタール。そのほか、栃木、群馬、神奈川、長野、兵庫、沖縄など、外国資本に買収されたと思われる森林は全国各地に広がっているとのことである。 ところが今までの日本では、水資源の利用に関する行政は国土交通省や厚生労働省、農林水産省などが縦割りで管理してきたことから、水源地の森林開発や地下水の利用などを有効に規制することが難しいという課題を抱えていた。そのために本法律の法案化にあたっては、たてわり行政や利権がからみ難航したとの話もある。 今回成立した法律では、内閣に総理大臣を本部長とする「水循環政策本部」を設置することを定め、基本理念として「水の公共性と適正な利用」や「水の利用に当たっては、健全な水循環が維持されるように配慮」することがうたわれている。この法案成立を目指して、超党派の国会議員や有識者、市民らによって『水制度改革国民会議』が設立されたのは2008年のことで、複数の省庁にまたがる「水」問題にはさまざまな利権が絡んでおり、なかなか法案の国会提出や成立にたどり着けなかったという経緯があった3)。 その後、2010年に改めて超党派の国会議員が集結して『水制度改革議員連盟』を設立し、今回の全会一致での法案成立に結びついたという4)。■水循環基本法制定の意義 「水循環基本法」は、水循環に関する施策について、その基本理念を明らかにするとともに、これを総合的かつ一体的に推進」するために、国や地方公共団体、事業者や個人の責務を定めた法律である。水循環基本法制定の意義については、同法の前文の中に以下のようにうたわれている。 “水は生命の源であり、絶えず地球上を循環し、大気、土壌等の他の環境の自然的構成要素と相互に作用しながら、人を含む多様な生態系に多大な恩恵を与え続けてきた。また、水は循環する過程において、人の生活に潤いを与え、産業や文化の発展に重要な役割を果たしてきた。 特に、我が国は、国土の多くが森林で覆われていること等により水循環の恩恵を大いに享受し、長い歴史を経て、豊かな社会と独自の文化を作り上げることができた。しかるに、近年、都市部への人口の集中、産業構造の変化、地球温暖化に伴う気候変動等の様々な要因が水循環に変化を生じさせ、それに伴い、渇水、洪水、水質汚濁、生態系への影響等様々な問題が顕著となってきている。 このような現状に鑑み、水が人類共通の財産であることを再認識し、水が健全に循環し、そのもたらす恵沢を将来にわたり享受できるよう、健全な水循環を維持し、又は回復するための施策を包括的に推進していくことが不可欠である。 ここに、水循環に関する施策について、その基本理念を明らかにするとともに、これを総合的かつ一体的に推進するため、この法律を制定する。”■本法律の目的 本法律の目的については、第1条で、以下のように説明されている。 “ この法律は、水循環に関する施策について、基本理念を定め、国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにし、並びに水循環に関する基本的な計画の策定その他水循環に関する施策の基本となる事項を定めるとともに、水循環政策本部を設置することにより、水循環に関する施策を総合的かつ一体的に推進し、もって健全な水循環を維持し、又は回復させ、我が国の経済社会の健全な発展及び国民生活の安定向上に寄与することを目的とする。”■「水循環」とは この法律において「水循環」あるいは「健全な水循環」ということばが多用されている。第2条では、その言葉について以下のように定義している。・水循環:水が、蒸発、降下、流下又は浸透により、海域等に至る過程で、地表水又は地下水として河川の流域を中心に循環することをいう。・健全な水循環:人の活動及び環境保全に果たす水の機能が適切に保たれた状態での水循環をいう。■本法の基本理念 本法の基本理念については、その第3条において、以下の5項目を挙げている。(1)水循環の重要性 水については、水循環の過程において、地球上の生命を育み、国民生活及び産業活動に重要な役割を果たしていることに鑑み、健全な水循環の維持又は回復のための取組が積極的に推進されなければならない。(2)水の公共性 水が国民共有の貴重な財産であり、公共性の高いものであることに鑑み、水については、その適正な利用が行われるとともに、全ての国民がその恵沢を将来にわたって享受できることが確保されなければならない。(3)健全な水循環への配慮 水の利用に当たっては、水循環に及ぼす影響が回避され又は最小となり、健全な水循環が維持されるよう配慮されなければならない。(4)流域の総合管理 水は、水循環の過程において生じた事象がその後の過程においても影響を及ぼすものであることに鑑み、流域に係る水循環について、流域として総合的かつ一体的に管理されなければならない。(5)水循環に関する国際的協調 健全な水循環の維持又は回復が人類共通の課題であることに鑑み、水循環に関する取組の推進は、国際的協調の下に行われなければならない。■関係者の責務 水循環基本法に基づく関係者それぞれの責務及び連携・協力については、第4条から第8条にわたって以下のように記されている。(1)国の責務 国は、前条の基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、水循環に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。(2)地方公共団体の責務 地方公共団体は、基本理念にのっとり、水循環に関 国際連合の特別行事を紹介した過去3回の連載(第165回~第167回)の中で、特に目立つテーマの一つは“水”であった。具体的に挙げるならば、「国際年」の中では、“国際淡水年”(2003年)、“国際水協力年(2013年)”があり、「国際の10年」には“「命のための水」国際の10年”(2005年~2014年)があり、「国際デー」には“世界水の日”(3月22日)があった。 日本では、水に関係するつい最近の話題としては、「水循環基本法」(平成26年法律第16号)が2014年7月に施行されたことが挙げられるであろう。特筆すべきことは、従来存在した「水の日」が2014年より法律で定められた行事とされたこと、「水循環基本計画」を閣議決定として2015年7月に発表したこと、健全かつ持続可能な水循環の構築に向けた民間の自発的・主体的取組の促進を目的とした官民連携プロジェクト「ウォータープロジェクト」を立ち上げたこと等であろう。 今回は、水循環基本法1)とそれに関係する情報のトピックスを紹介する。