ブックタイトルメカトロニクス8月号2015年
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メカトロニクス8月号2015年
MECHATRONICS 2015.8 351. はじめに 業務用・マリン用・アマチュア用の各無線機器やネットワーク機器の製造・販売を手がけ、無線通信機器業界を力強く牽引している、アイコム(株)。 最高級のHFオールモード・トランシーバ『IC-7851』や、小型の筐体ながらも1kWを実現したHFオールバンド+50MHz 1kWリニアアンプ『IC-PW1』など、世界中のユーザーの熱い注目を集め、また国内外のさまざまな現場で幅広く採用される製品群を展開しているアイコムは、社員の多くが、理系の知識を有する技術者であるという。そのため、あらゆることを「突き詰める」姿勢が強く、「今までの世の中になかったものを作って、形にする」という風土が根付いている。上記の2製品も、技術者のチャレンジ精神から生まれたものである。 また、多くの製造メーカーが「製造コストが安価であること」などを理由に海外展開を進めていた時期にあっても、アイコムでは、ぶれることなく、国内生産にこだわり続けている。 その理由は、●本社の開発部門と生産部門の濃密な一体行動によ り、現場/現物/現実/原理/原則で品質の作り込 みができる●最小の労力で最大のスループットを引き出すことが できる●最新の高性能な製品をすばやくお客様にお届けで きるというものであり、同時に、海外生産にも対抗しうる、充分な価格競争力も有している。 このようなアイコム製品の生産拠点として、高品質・高性能な製品を供給しているのが、和歌山アイコム(株)である。 「常に最高の技術集団であれ」というアイコムの社是を体現し、さらに「NEXT IPS」「4S 徹底と改善実行・常に考える、常に進化する」をスローガンとして掲げながら、独自の生産システムを構築している和歌山アイコムの取り組みを、以下にご紹介する。2. 和歌山アイコムの概要 和歌山アイコム(株)の設立は1988 年。和歌山県有田川町の有田工場ほか、紀の川市に紀の川工場を有している。この2つの工場の間は約50km、車で約1時間の距離に位置している。 各工場のライン数は、有田工場が全8ラインで、このうち完成品が7ライン、PCB加工をする面実装の後の工程が1ライン。また、紀の川工場は4ラインで、いずれも完成品のライン、である。 工場の敷地面積は、有田工場=26,OOOm2、紀の川工場=23,210m2。設備としては、有田工場では実装から組み立て、梱包までを行うことができる。いっぽう、紀の川工場には面実装の設備はなく、有田工場で実装された基板が毎日納められ、製品の組み立て・梱包を行っている。なお、紀の川工場では、自社内で装置を作り、測定器を組み込むなど、独自の自動化のラインを構築している。3. 独自の生産方式を導入し、 「 課題」を洗い出す1. コンベア・ストップ方式 和歌山アイコムでは、生産方式として、「IPS(アイコム・プロダクション・システム)」と呼ばれる「コンベア・ストップ方式」と、そのIPSを基本とした独自の「インラインセル・ストップ方式」を併用しており、作業工数や部品点数、生産台数によって、各方式を使い分けている。 「コンベア・ストップ方式」とは、意図的に、「8 時間分の生産量」が7時間30 分で終了してしまう速度でコンベアを動かすことによって現場の作業に「無理」を生じさせ、問題が発生した時点で手元のボタンを押してコンベアを止めさせる、というものである。これによって止めなければならなかった箇所が、すなわち「問題のあるポイント」ということになる。このシステムでは「ストップ・ゼロ」のラインは「最悪のライン」とされている。つまり、そのラインは「作業スピードに余裕がありすぎる」か、「人員が余分にいる」など、いずれにせよ合理的なラインではないと判断させるからである。 なお、ラインが停止した原因と理由、また、どの工程で何分間止まったのか、などについてはコンピュータに記録されており、そのデータをもとに、原因の究明と改善策が話し合われる。ラインに負荷をかけて問題を抽出し、原因の究明してこれを改善し、その効果を確認することを繰り返すことで、同社の生産性と手がける製品の品質は向上しているのである。2. インラインセル・ストップ方式 「インラインセル・ストップ方式」は、少数の作業者チームで「組み立て→検査→完成」までを一貫して行う、というもので、作業台となるセル台を自在に組み合わせることができ、「作業効率を高めるための改善や工夫」を取り入れやすくしている。この方式によって、市場ニーズの多様化に柔軟に応える多品種少量生産がスムーズに行え、求められる製品をタイムリーに供給することできるのである。 また、工程間にはセンサが設置されており、作業内容の分析や作業バランスが把握できるIPSの見える化の仕組みを進化させたシステムになっている。そして、そこで得られた情報をもとに作業の改善が行われ、その積み重ねが品質と生産性のさらなる向上につながることになる、という。なお、大型製品についてはセル生産方式を採用している。これは、1 人の作業範囲が広いという特徴があり、熟練の作業員のチームが、組み立てから検査までを行っている。4.「4S活動」と「改善提案」 このほかに、同社の全社的な取り組みとして特徴的なのが、「4S活動」と「改善提案」である。1.「4S活動」 「4S活動」とは、「整理・整頓・清掃・清潔」という「4S」の徹底、である。 それを表す取り組みのひとつに、清掃用具の扱いがある。掃除用具は通常、ロッカーなどに見えないように収められているものであるが、同社では、人が多く行き交う廊下に、オープンな形で収納している。汚い用具で掃除をしても意味がないため、それぞれの用具が綺麗であるかどうかをあえて「見える化」しているのである。ほうきの柄には番号を書いたシールが貼られており、番号違いで吊っていてももちろん差し支えはないものであるが順番通りに並べることをあえて周知徹底している。これは、ルールを厳守することが質の良い生産に結びつく、という思想に基づくものである。 このように、職場をより快適に、より安全にしながら作業員の質を高め、品質と生産性のさらなる向上を図っているのである。2.「改善提案」 また、社員による積極的な「改善提案」も行われている。これは、現場での作業時などに作業者が思いついたことを書き、各ラインに備え付けられた箱に入れるというもので、毎月、多くの改善提案が提出されている。そして週に1 度、ラインの責任者が集まって、「どのような問題があるか」を集約する。 「この作業がやりにくい」など、出された改善提案について、会社側では、「コストの面から実現が難しい」などの理由から却下することはほとんどせずに、速やかに応えるようにしている。 これは、「現場のことは作業者がいちばんよく知っている」という考えに基づいている。日々、出される「改善提案」のなかで、特に優秀なものについては工場内の廊下に掲示される(写真2)。 これらの改善提案は品質や生産性向上の大きな原動力となっているほか、作業者ひとりひとりの自発的な気づきを促し、自覚を育てるのに役立っているものと思わされた。 なお、出てきた改善提案を具体的な形に実現するのは、おもに改善課の仕事である。同課には、ソフトを作成したり、溶接して棚を作るなど、あらゆることに対応できる人が配属されているという。独自の生産ラインを構築し、高い生産性と高品質な製品づくりを実現する、和歌山アイコムの取り組み(その①)写真1(紀の川工場) 写真2工場レポート