ブックタイトルメカトロニクス12月号2013年

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メカトロニクス12月号2013年

50 MECHATRONICS 2013.12日本産業洗浄協議会専務理事 相模環境リサーチセンター 所長 小田切 力気候変動に関する政府間パネル(IPCC)~(1)IPCC とその第5 次評価報告書~【第141回】■ IPCC 設立の目的と組織(1)IPCC 設立の背景 大洪水や干ばつ、暖冬といった世界的な異常気象を契機に、1979 年、第1 回世界気候会議において、研究をさらに促進し、それに対して力を注ぐことを支援する世界気候プログラム(World ClimateResearch Programme)が設定された。次いで、世界気象機関(WMO:World MeteorologicalOrganization)と国連環境計画(UNEP:UnitedNations Environment Programme)は気候と気候変動に係わる研究を開始した。 その後、気候変動に関する国際的課題が増大するにつれ、各国政府が効果的な政策を講じられるよう、気候変動に関する科学的情報を包括的に提供する必要性が高まった。これらを背景として、新しい組織の設立構想が1987 年のWMO総会並びにUNEP 理事会で提案され、1988 年にIPCC が設立された。 IPCC は、発足当初は先進国主導であったが、その後各国政府に参加が呼びかけられ、現在ではほとんど世界中の国が参加するようになった。(2)IPCC 設立の目的 IPCC の組織は、地球温暖化についての科学的な研究の収集、整理のために、国際的な専門家でつくる気候変動に関する政府間機構を意味する。 現在は、地球温暖化に関する最新の知見の評価を行っており、人為的な気候変動の危険性に関する最新の科学的・技術的・社会経済的な知見をとりまとめて評価し、各国政府に助言を行っている。本組織の特徴は、以下のように説明されている。・委員には、世界有数の科学者が参加している。・政府間パネルと名付けられているが、参加者は政府関係者に限らない。・参加した科学者は、発表された研究を広く調査し、評価(assessment)を行う。必ずしも新しい研究を行うのではない。・政策立案者に対して、科学的知見を基にした助言を行うことを目的とし、政策の提案は行わない。(3)気候変動枠組条約とIPCC の関係 IPCC は本来、世界気象機関(WMO)の一機関であり、国際連合の気候変動枠組条約(UNFCCC)注2)とは直接関係のない組織であったが、1990 年8 月に公表した「第1 次評価報告書」が気候変動に関する知見を集大成・評価したものとして高く評価されたことから、基本的な参考文献として広く利用されるようになった。1992 年2 月にはUNFCCCの交渉に寄与するために報告書の作成も行っている。注2)気候変動枠組条約:気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC:United Nations Framework Convention onClimate Change)。地球温暖化対策に関する取組を国際的に協調して行っていくため1992 年5月に採択され、1994 年3 月に発効した。 条約の交渉に同組織がまとめた報告書が活用されたこと、また、条約の実施にあたり科学的調査を行う専門機関の設立が遅れたことから、IPCCが当面の作業を代行することとなり現在に至っている。IPCC自体が、各国への政策提言等は行うことはないが、国際的な地球温暖化問題への対応策を科学的に裏付ける組織として、間接的に大きな影響力をもつ。UNFCCC は1992 年に採択されたが、それまでに行われた条約作成の議論に、IPCCの報告書は重要な役割を果たした。 1994 年にUNFCCCが発効し、同条約第9条注3)に基づき国連内にも「科学上及び技術上の助言に関する補助機関」(SBSTA)注4)というUNFCCC の実施に直接関連する科学的調査を行う機関が設立されたことを機に、IPCC とSBSTA の作業分担が行われると予想されていた。しかし、SBSTA の立ち上がりが組織編成等で遅れ、実質的な活動が開始されなかったことから、UNFCCC 事務局からIPCC に当面の作業を依頼することが提案され、補助機関会合で合意された。これを受けてIPCCは、補助機関の要請に答えて技術報告書と特別報告書を作成することとなった。注3)第9 条(科学上及び技術上の助言に関する補助機関):“この条約により科学上及び技術上の助言に関する補助機関を設置する。当該補助機関は、締約国会議及び適当な場合には、他の補助機関に対し、この条約に関連する科学的及び技術的な事項に関する時宜を得た情報及び助言を提供する。当該補助機関は、すべての締約国による参加のために開放するものづくりと地球環境とし、学際的な正確を有する。当該補助機関は、関連する専門分野に関する知識を十分に有している政府の代表者により構成する。・・・”注4)科学的上及び技術上の助言のための補助機関:SBSTA(Subsidiary Body for Scientifi c and Technological Advice)。(4)参加者と組織 IPCCへの参加者は公募により選ばれ、各国政府から推薦された科学者である。 IPCCの組織は、最高決議機関である総会と、下記の3つの「作業部会注5)」および「温室効果ガス目録に関するタスクフォース注6)」から構成されている(図1)。注5)作業部会:WG(working group)。注6)タスクフォース(task force):対策委員会、特別調査団。・第1 作業部会(WG-I):自然科学的根拠。気候システム及び気候変動に関する科学的知見を評価する。・第2 作業部会(WG-II):影響、適応、脆弱性。気候変動に対する社会経済システムや生態系の脆弱性と気候変動の影響及び適応策を評価する。・第3作業部会(WG-III):気候変動の緩和(策)。温室効果ガスの排出抑制及び気候変動の緩和策をそれぞれ評価する。・温室効果ガス目録に関するタスクフォース:各国における温室効果ガス排出量・吸収量の目録に関する計画の運営委員会。 IPCCの議長団(bureau)は、IPCC 議長1 名、IPCC副議長3名、各WG共同議長各2名、各WG副議長各6 名、タスクフォース共同議長2名の計30名で構成されており、常設事務局は、ジュネーブのWMO本部内に、WMO とUNEPの共同で設置されている。 現在の議長は、2002 年より就任しているパチャウリ博士(Rajendra K. Pachauri)(エネルギー・資源研究所所長、インド) である。(5)ノーベル平和賞受賞 IPCCはゴア前米副大統領とともに2007 年10月にノーベル平和賞を受賞した。受賞理由は2 件ともに、“人為的な気候変動”に関する知識を広め、対応策の基盤構築に努めたという内容であった。■ IPCC の報告書(1)知見の評価と報告書の発表 IPCCが行う知見の評価とは、新しい調査や研究を行うのではなく、すでに発表されている論文を調査し、評価することである。IPCCは報告書執筆に関して、世界中から数百名の科学者とその他の研究者に協力を依頼し、その報告書は世界的なピア・レビュー注7)を受ける。また、IPCC は、各国政府の承認を受けた“政策決定者のための研究成果の要約”注8)を作成し、発表している。注7)ピア・レビュー(peer review):専門家どうしで調査や研究の内容を検討したり批評したりし合うこと。注8)政策決定者のための研究成果の要約:SPM(Summary forPolicy-makers)。 IPCC は、これまでに4 回、温暖化の予測・影響・対策等に関する評価報告書を以下のように公表している。 ・1990 年:第1 次評価報告書(FAR) ・1995 年:第2 次評価報告書(SAR) ・2001 年:第3 次評価報告書(TAR) ・2007 年:第4 次評価報告書(AR4)注9)注9)FAR:The First Assessment Report of IPCCSAR:The Second Assessment Report of IPCCTAR:The Third Assessment Report of IPCCAR4:The 4th Assessment Report of IPCC■第5 次評価報告書の作成予定 第5次評価報告書作成については、IPCC 第31 回総会(2009 年10月)において、以下のような概要と日程が決定された。(1)第1作業部会報告書(自然科学的根拠) 気候変動の自然自然科学的基礎を網羅的に取り上げつつ、現時点で特に関心の高い事項については独立の章を設けて重点的に扱う構成とする。 以下の項目を新たに独立した章とする。・気候変動のメカニズムの中で明らかでない点が多国際連合には地球環境問題として気候変動に関して最新の研究成果をまとめるために、科学者と行政官から構成される組織がある。それは「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」注1)で、気候変動に関する科学と気候変動の影響に関する評価報告書をこれまで4回発表している。その第5回目の報告書は、第4回の報告書発表(2007年)以来検討されてきたが、このほどその報告書の一部である「第1作業部会報告書(自然科学的根拠)」が発表された。 今回はIPCCの成り立ちと過去の活動内容、および今回の「第5次評価報告書」発表の内容について、主として経済産業省および環境省がそのホームページで発表した資料に基づいてご紹介する1)。注1)気候変動に関する政府間パネル:IPPC(Intergovernmental Panel on Climate Change)。<写真1>「IPCC第5次評価報告書第1作業部会報告書」の表紙2)