ブックタイトルメカトロニクス12月号2013年
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メカトロニクス12月号2013年
MECHATRONICS 2013.12 495.遊星歯車減速機(つづき)5.2 速比 6 種類の入出力構成のうち、一番多く用いられるのは、内歯歯車を固定し、ピニオンを入力に、遊星歯車のキャリア軸を出力にして駆動する構成である。以下、この場合について、減速比を求めてみよう。 これまで、速比は構成する歯車の歯数のみに依存し、心間距離にも、転位係数にもよらない、と述べてきた。そのことを導いてみたいと思う。 図5.2は図5.1(前回の図)の遊星歯車減速機における噛合い状態を示したものである。図が煩雑になることを避けるため、歯車の歯形は記さず、それぞれの歯車は基礎円で示している。 まず、ピニオンz1と遊星歯車z2 の噛合いについて述べると、外歯歯車対の章で解説したように、作用線は両基礎円に接し、作用線が中心線を切る点がすなわち噛合いピッチ点であり、両歯車の噛合いピッチ円半径rp1, rp21は心間距離をaとすると、aを歯数比z1: z2で内分した長さになる。 次に、遊星歯車z2と内歯歯車z3 の噛合いについて述べると、内・外歯歯車対の章で解説したように、作用線は両基礎円に接し、作用線が中心線を切る点がすなわち噛合いピッチ点であり、両歯車の噛合いピッチ円半径rp23, rp3は心間距離をaとすると、aを歯数比z2: z3で外分した長さになる。 ここで、遊星歯車z2 の噛合いピッチ円半径はz1 側とz3 側とで違っている。これは、作用線の方向すなわち噛合い圧力角が両者において違っているためである。 次に速比を考える。図5.2(b)において、入力歯車 z1を角速度ω1で反時計まわりに回す。このとき噛合いピッチ点rp1 の持つ速度ベクトルをv1とすると、歯車 z2の噛合いピッチ点rp21も同じ速度ベクトルv1を持つ。一方、固定歯車z3の速度ベクトルはゼロであるが、これがどの点で歯車z2と噛合っているかというと、噛合いピッチ点rp23においてである。歯車z2の直径要素を考えると、その上端rp23 のところで速度がゼロ、その下端 rp21 のところで速度がv1である。したがってz2の中心のところではvh=v1 × rp23/(rp23 + rp21)の大きさの速度を持つ。これを回転半径aで割った値がキャリア軸の回転角速度(遊星歯車の公転角速度)である。 以上の関係を下式に示した。 (5.1) 以上によって、減速比1/uは歯数z1とz3 のみによって決まることが分った。z2が関与しないのは、これがいわゆるアイドラ―(idler, 中間歯車)であるからである。5.3 心間距離と転位係数 心間距離が速比に関係しないことが分ったが、このことは心間距離をいい加減に決めて良いということではない。ここでは背??をゼロにする心間距離を最良のものと考えており、歯数と転位係数が決まるとそれによって心間距離が決まる。あるいは、歯数と心間距離が決まるとそれによって転位係数が決まる。後者の場合には、こうして決められた転位係数による歯形が(切り下げや尖りを起こさない)バランスの取れた歯形であって欲しい。 遊星歯車減速機の場合、同一の心間距離に関する歯車対の式が2 組あるので、その両方の条件を満足するように、これらの値を決定しなければならない。転位係数に対する許容範囲は歯数の少ない方がきびしいので、まず、x1, x2 の値を決めて、それによって心間距離を決め、その値から無背??条件を満足するx3 の値を決めて、その妥当性を検討するのが良いと思われる。x3 の値が不適当であれば、歯数を再検討し、たとえば、z2 の枚数を一つ減らすなどの手段を取る必要がある。 図5.1 の場合には、 (5.2)となり、x3は妥当な値と考えられる。6. 不思議遊星歯車減速機6.1 不思議歯車とは 歯車は歯数が増えれば、その分だけ径が大きくなる。だから、1 枚の歯車Aが同時に歯数の異なる2 枚の歯車B,Cと噛合って、しかもBとCは同軸であって外径も等しいなどということはあり得ないと、普通の人は思っている。しかし、転位を行なうことによってこのことは可能になる。それを見た人は、これは不思議だと思うに違いない。しかも、よく見ると、その重なっている2枚の歯車の一方は止まっているのに、もう一方はゆっくりと回っている。これは不思議だ。これを不思議と言わずに何と言おうか。6.2 構成 図6.1に不思議遊星歯車の例を示す。中心にピニオンz1があり、これが3枚の遊星歯車z2と噛み合っている。この遊星歯車は同時に外周にある2 枚の内歯歯車z3, z4とも噛合っている。z3, z4は通常いずれも3で割り切れる数字であり、その差は3である。z1も3で割り切れる数字である。z2には制限はない。インボリュート歯車の設計牧野オートメーション研究所長 山梨大学名誉教授 牧野 洋第8回図5.2 遊星歯車減速機における噛合い(a)噛合い状態(b)速比図6.1 不思議遊星歯車減速機( )