ブックタイトルメカトロニクス9月号2013年
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メカトロニクス9月号2013年
52 MECHATRONICS 2013.9《第53回》2 設計から始めよう(その51)表2-47 拡散板に関する特許事件例(その1) 2-118)表2-46 「拡散」とその類似用語 2‐117)5.側射型照明装置(2)充実型側方照明( エッジライト) 方式⑯散乱・拡散シートⅳ 拡散シート(その1) 散乱や拡散現象を、とくに光の干渉により発現する回折現象について、前回まで勉強してきた。光線を四方へ分岐させるシートには散乱シートと拡散シートとがある。日本工業規格の光学用語では“散乱”も“拡散”も明確に分けて定義されてはいない(表2-46)。しかしシートの構造によって透過光線又は反射光線が発散する仕組みが異なるようであるから、ここでは“散乱:scattering,”(=光が極めて小さい粒子を含む媒質の中を通過又は反射する場合に、光の進行方向が空間的に多くの方向に変わる現象)とし、“拡散:diff usion”(=光が極めて小さい凹凸のある表面に入射する場合に、光の進行方向が空間的に多くの方向に変わる現象)と表現して区別したい。光が媒体表面で反射又は屈折するのが拡散であって、表面の粗さが光の波長くらいの微細な凹凸である場合に回折となる。回折は拡散の一種としてみなす。 光を拡散する技術分野がどのように研究開発されてきたのか、その応用製品がどのような仕組みで製造されているのか。その一端を垣間見るために、出願日の順を追って特許資料を概観してみた(表2-47)。開発初期ではシートを具体化するための構造やその製造方法に関する事件が多く、後期になるとシートを活用する事例が見えてくる。 1980 年ころは一眼レフカメラが発展期にあったので、映像の焦点合わせを精度向上するために、これらの拡散シートがカメラの焦点板に適用された(既出図2-184)。凹凸粗面を作製するために、砂摺り加工や切削加工を駆使している。さらにホログラフィ技法により加工した焦点板を装備したときには、光の回折機能を活用してレンズで合焦した映像を精細に視認できる効果を狙っている。 拡散シートの回折機能は、1990 年代になると液晶バックライトに適用され始めた。ホログラムを通過し分光したそれぞれの光がカラーフィルタのそれぞれのB・G・R セルを照射して、光の利用効率を格段に向上できるようになった。さらに2000 年代になると、液晶バックライトの導光板にホログラムを敷設して導光板内を誘導された光を所定方向へ有効に放出する技術を開発している。 この同じ頃に興味ある発案にお目にかかる。外界を透視できると共に、所定の映像を観察できるヘッドマウントディスプレイの発明だ。ホログラムが光を回折する作用と光を透過する作用もする半透過板として用いている。通常の半透過鏡( ハーフミラー) は透過率や反射率が1/2 であるのに対して、このホログラムミラーは透過・反射とも光量の損失がない。どのような映像品位なのであろうか、このディスプレイを体験したいものだ。 これらの特許資料を収録した一覧表には“特許査定”された事件ばかりを選択して掲載した。出願したけれど“拒絶”査定を受けた事件や、審査請求を自発的に“取下げ”たもの、又は審査請求をせずに放置し“みなし取下げ”と査定されたものなど消極的処分が、積極的処分である特許査定件数の2 倍に及んでいる。 こうした拒絶査定を受けた事件の技術内容を一瞥してみると、物理現象を皮相的に捉えて目先の課題に安易に取り込もうとしている姿勢が推量されるものがある。消極的査定を受けないようにするには、技術を特許申請する前に、開発技術者としてなすべき仕事がありそうだ。 拡散は光学の一領域であるから、光学知識の概要は体得しておくべきで、即席に学習する手段としては光学用語を系統立てて正しく理解するのが好いかも知れない。“分散”“分光”など用語は適正に用いること。拡散シートから放出された光が“分岐”と表現するのは許せるとしても、“分散”“分光”と記述しては「光に色でもついてしまったのだろうか」と他人は誤解し