ブックタイトルメカトロニクス8月号2013年
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メカトロニクス8月号2013年
MECHATRONICS 2013.8 492.インボリュート歯車の歯形(つづき)2. 6 切下げ インボリュート曲線は基礎円の外側にしか存在しないので、ラック形工具の歯元相当線が基礎円上のインボリュート始点を超えて内側に喰い込むような状態になると正しいインボリュートが得られない部分が出てくる。このとき、一度創成されたインボリュートの一部が工具の他の部分によって削り取られるような状態となり、これを切下げ(undercut)という。その例はすでに図2. 5a)や図2. 2に示した。 「切下げ」とは、切り取られたインボリュートの部分をいうものと思われるが、切下げを起す状態ではこれにつながる頂??の部分も切下げ部分と同様な効果(歯厚を狭める、など)をもつため、ここでは、頂??の部分も含めて「切下げ」部分と呼ぶことにする。 与えられた歯数z1に対して切下げを起こす限界の転位係数x1uを切下限界転位係数といい、切下げを防止するためには転位係数x1をこれより大きい値に選ばなければならない。これを切下げ防止条件といっている。 :切下限界転位係数 (2. 3) :切下防止条件 (2. 4)2. 7 尖り 切下げを防止するために転位係数を上げると、歯数の少ない歯車では尖りを生ずることがある。これは歯面の左側のインボリュートと右側のインボリュートが歯先円に達する前に交??して、そのために歯先部が削り取られる現象である。尖りを起こすと、できたシャープエッジが破損しやすくなる上に、有効なインボリュートが削り取られるために噛合い率(平均的に噛合っている歯の枚数)が悪くなる。 与えられた歯数z1に対して尖りを起こす限界の転位係数x1sを尖り限界転位係数といい、尖りを防止するためには転位係数x1をこれより小さい値に選ばなければならない。これを尖り防止条件といっている。 :尖り防止条件 ( 2. 5)尖り限界転位係数は計算によって求めることができる。2. 8 転位係数の選択 一般に転位係数は、上記二つの条件を満足するように選ぶのが良い。すなわち、切下げ限界よりも大きく、尖り限界よりも小さく選ぶ。歯数が8 以上の場合にはこのことは可能である。 図2. 6は歯数を横軸に取って、この二つの条件を図示したものである。これを見ると、歯数の大きい場合には、転位係数の選択の幅が広いことが分る。歯数が17 枚以上の場合には無転位で十分であるし、転位係数x1 = 0.5とすれば歯数8 枚以上のすべての歯車について、ほぼ満足すべき歯形が得られる。 歯数が7 枚以下の歯車についても、多少の切下げ、あるいは多少の尖りが許せるならば、回転可能な歯形を得ることができる。歯数4枚は十分可能であるし、歯数3 枚も不可能ではない。十分な転位を行なえば、強度を改善して、スプラインなどにも活用できる。 歯数が2 枚あるいは1 枚になると、噛合い率1 以上を満たすことができなくなる。しかし、2 組の歯車の位相をずらせて組み合わせるとか、はすば歯車にするなどすれば、使用可能になるかも知れない。 図2. 7には、歯数の少ないインボリュート歯車の幾つかの例を示した。実際の使用に当たっては強度その他の条件を十分に吟味する必要がある。 図2.7において、基礎円に接する2 本の斜めの線(水平方向と20°をなしている)は作用線を示している。歯車が反時計方向に回るとき、歯車とラックとの接触点は、正側では右下から左上に向かう作用線上を、負側では右上から左下に向かう作用線上を走る。双方の歯先円(または歯先線)が作用線を切る長さが有効作用線であり、これをインボリュートの法線ピッチで割った値が噛合い率である。 図2.7は歯車の反時計回転におけるほぼ接触開始の点で描いてあるので(あまり正確ではない)、これによって噛み合い率を推定することができる。 ここに述べる設計法では、転位係数は原則としてその歯車の歯数のみから決定する。相手歯車の歯数とか、心間距離とかによらない。両歯車の歯数と転位係数が定まったのちに、心間距離の方をそれに合わせて設計する。心間距離が先に決められる場合もあるが、その場合の転位係数の選び方については後述する。インボリュート歯車の設計牧野オートメーション研究所長 山梨大学名誉教授 牧野 洋第4回 z1 x1u=1-― sin2αc 2x1 x1ux1 x1s図2.6 切下げ限界と尖り限界図2.7 少歯数歯車の例a) z1=6, x1=0.65 b) z1=5, x1=0.7 c) z1=4, x1=0.7d) z1=3, x1=0.7 e) z1=2, x1=0.75 f) z1=1, x1=0.85