ブックタイトルメカトロニクス7月号2013年

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メカトロニクス7月号2013年

50 MECHATRONICS 2013.7日本産業洗浄協議会専務理事 相模環境リサーチセンター 所長 小田切 力東アジアにおけるモノづくりと環境のマネジメント~高桑教授によるJSPS アジア研究教育拠点事業(1)~【第136回】 財団法人日本学術振興会注1)は、アジア研究教育拠点事業(JSPS Asian CORE Program)の一環として、2008年度から5ヵ年の計画で“東アジアにおけるモノづくりと環境のマネジメント(Manufacturing andEnvironmental Management in East Asia)”と銘打ったプロジェクトを取り上げた。 最近の環境問題は、過去の公害問題とは異なり、一つの国の内部で、ある特定の地域に限定された問題から、地球規模で考え世界中の国が集まって議論を重ね、国際協定を制定しながら国際的な協力に基づいて具体策を練る問題に拡大しつつある。 その代表的な問題が、成層圏のオゾン層破壊の対策であり、国際的な協力が実りつつあり、対策が功を奏して南極オゾンホールが消滅することを、数十年先の事ではあるが待ち望んでいるところである。その問題と前後して地球温暖化防止の対策が現在世界的な規模で検討されている。 また、今年の春先に話題となった中国における深刻な大気汚染が、PM2.5を原因とするものであり、日本にも影響が及ぶとして、その影響と対策は人ごとではない。モノづくりにおける環境問題は、経営政策、工場管理の問題と併せて考える必須なテーマなのである。 “東アジアにおけるモノづくりと環境のマネジメント”のプロジェクトは、名古屋大学の高桑宗右ヱ門教授(同大学院経済学研究科)の指導の下に2008年から5ヵ年計画で開始された。 筆者は縁あって、同プロジェクトに産業洗浄の組織に関わる一員として参加する機会を得た。同プロジェクトは2013年3月末で終了し、既にその成果の一部は、セミナーでの研究発表以外に、学会誌、単行本、新聞等によって紹介されている。 以下には、本プロジェクトの現在までの経過と、今後の進み方について、発表された資料を整理して紹介する。注1)財団法人日本学術振興会:(JSPS, Japan Society for the Promotion of Science)文部科学省所管の独立行政法人。学術研究の助成、研究者の養成のための資金の支給、学術に関する国際交流の促進、学術の応用に関する研究等を行うことにより、学術の振興を図ることを目的とする(独立行政法人日本学術振興会法3条)。日本学術会議と緊密な連絡を図るものとされている(16条)。■本研究プロジェクトについて(1)本研究プロジェクトの目標 本研究プロジェクトの目標は、その実施計画書の中に以下のようにうたわれている1)。① “わが国と経済成長の著しい東アジアにおいて、製造企業におけるモノづくりを支えるために、長年わが国において培われてきた経営管理システムについて、理論と実践の両面から研究開発を推進する。” “近年国際的な取組みが急務となっている地球温暖化に対して、モノづくりの観点から、経済発展と環境改善のために、わが国が東アジア諸国に対して、環境技術などのノウハウの移転などについて、その方法論を創出するために、北京大学をはじめ、天津大学・北京理工大学・西南交通大学などの中国の重点大学と共同で研究を進める。 それにより、若手研究者育成を図りつつ、日中を中心としてアジア諸国を組み込んだ形の当該研究教育の交流拠点を形成する。”② わが国を代表するモノづくり・製造企業が集積する中部・東海地区において、名古屋大学経済学研究科は特に中部産業界と連携して、日本経営管理標準や、トヨタ生産システムなど、先端的な研究を推進してきた。 本事業の相手国の拠点機関ならびに協力機関は、いずれも日系企業が拠点として事業展開している地域を代表する研究機関である。共同で研究教育を推進することにより、学術的価値の高い成果が期待できる。③ 相手国の拠点機関である北京大学・環境学院は、環境に関する研究においては中国を代表する研究機関であり、中国政府に対する重要な政策提言を数多く行っている。環境問題が深刻化している中国において、本事業の研究交流の成果は、重要な意義があり、多大な貢献が期待できる。④ 経済学研究科は、経済学部生をはじめ、社会人、留学生、他学部学生などを対象として博士課程において、研究成果の教育を実施することにしており、国際性のある研究者実務家の養成を遂行する。⑤ 本研究科ならびに中国側拠点機関ならびに協力機関との間で、テレビ電話会議システムの活用などにより、迅速かつ効率的な共同研究が遂行できる体制を整え、日中産学官連携コンソーシアムの構築を目指す。 化学工業日報紙は、高桑教授への記者インタビューで、本研究プロジェクトの概要を以下のように紹介している2)。 “東アジア諸国に、モノづくりの視点からわが国の環境マネジメントの技術ノウハウを移転するための方法論を探り、関連人材を育成することが第1の目的である。当初は日本と中国の大学が連携して始めたが、途中からベトナム、モンゴル、韓国、シンガポールの大学や行政機関が参加した。日本の企業も加わって産学官連携に広がった。5年間に計16回セミナーを開催し、活発な意見交換をしながら進めてきた。”(2)実施組織 実施組織として、日本側は、名古屋大学大学院経済学研究科が拠点機関となり、同研究科所属の高桑宗右ヱ門教授がコーディネーターとなっている(写真1)。 相手国側実施組織は、北京大学が拠点機関で、同大学のLuan Shengli 教授がコーディネーターとなり、別に天津大学、北京理工大学、西南交通大学が協力機関に登録されている。 プロジェクトの開始以後、韓国やシンガポール、モンゴル、マレーシア、ベトナムなどの大学も参加し、本プロジェクトの活動は東アジアで幅広い広がりをみせている。(3)プロジェクトでの検討テーマ 同プロジェクトでは、環境問題として“CO2排出削減”、“化学物質管理”、“大気汚染”などの生産活動にかかわる環境問題を取り上げている。たとえば、“生産と技術のマネジメント”、“低炭素経済”などのテーマで研究成果を出版物にまとめる作業が進行中であり(一部は出版済み)、また、マテリアルフローコスト会計注3()MFCA)などシステマチックなアプローチでマネジメントを考える局面もある。地球温暖化問題については、経団連の低炭素実行計画の枠組みを参考にして、“持続可能な社会づくり”、“拡大生産者責任”、“環境経営”の3段階で包括的な議論を行っており、経済学、経営学、会計学、工学、環境学などを包み込んだ学際的な議論に発展している。(注3)マテリアルフローコスト会計:(MFCA、Material Flow CostAcounting)。廃棄物の削減と資源生産性向上を目的に、生産工程におけるロスを金額で測定する手法。 化学工業日報紙の記者インタビューでは、重点的に取り上げたテーマを以下のように説明している2) “低炭素経済と環境マネジメントの統合に焦点を当てた。プロジェクトの前半はマクロの視点から環境経済について、後半は企業が取り組む環境マネジメントに重点を置いた。2つの軸で討議し、1つの道筋を示すことができたと思う。”<写真1> 高桑宗右ヱ門教授【第136 回】■本研究プロジェクトについて (1)本研究プロジェクトの目標 (2)実施組織 (3)プロジェクトでの検討テーマ■同研究プロジェクへの参加 (1)高桑教授からの勧誘 (2)同研究プロジェクトのセミナー (3)日本産業洗浄協議会(JICC)としての協力 (4)他組織からの協力 【第137 回】】(予定)■新聞紙上での同セミナーの紹介 (1)2011 年1 月のセミナー (2)2012 年1 月のセミナー■同セミナーの出版物による紹介■「東アジアのモノづくりマネジメント」について (1)本書の構成 (2)各章の概要■「モノづくりと環境のマネジメント」について (1)本書の構成 (2)各章の概要■今後の課題(注2)本連載の目次の予定は以下の通り。