ブックタイトルメカトロニクス6月号2013年

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メカトロニクス6月号2013年

50 MECHATRONICS 2013.6日本産業洗浄協議会専務理事 相模環境リサーチセンター 所長 小田切 力里地里山について(5)~里地里山を守るための運動~【第135回】 人間の社会的活動が複雑多岐に変化するにつれ、それまで人間の手が加えられない古来からの自然が人工的に変えられてきた。その改変の過程で、自然に形成された樹林、草原、ため池に人工の里地、田畑、水路が、人間集落と機能的につながり、そこに里山の概念が形成された。また、その周辺では、さらなる開発のために自然破壊にもつながる宅地開発、都市再開発が進められ、“里地里山”の開発からの保全が自然環境保護の大きな問題とされるようになった。 “里地里山”に関する諸問題の連載第5回として、今回は“里地里山”を守るための運動についてご紹介する。■テレビ番組で取り上げられた里地里山 どこの場所に住むかを考えるとき、人は自然とどのように付き合えるかが重要な時代があった。現在では、若いときには勤め先への毎日の通勤が気になり、老後には、コンビニへの距離が大変に気になる生活様式に変わってしまった。難しく里地里山を環境問題として深刻に考えなければならないこと自体が、自然と人間社会との共生に矛盾をはらんだ生活環境の変化を物語っている。 「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が名古屋市で開催された(2010年10月)頃、テレビでは里地里山を取り上げたシリーズ番組が盛んに放映された。現在では、「ニッポンの里山:ふるさとの絶景に出会う旅」という10分番組が、NHKのBSプレミアムで、4月1日(月)から、月曜日から土曜日まで表1のような予定で放送され、NHKのホームページで下記のように紹介されている1)。 “人の暮らしと多様な生き物を育む自然が見事に調和した日本ならではの美しい環境、里山。田んぼや雑木林、放牧地や茶畑、さらに海辺や神社など日本全国には人と生き物が共存する里山がたくさんある。全国の里山を訪ね、旅を通してその土地ならではの美しい風景に出会い、人と共存する多様な自然をみつめるミニ番組「ニッポンの里山・ふるさとの絶景を訪ねる旅」(放映時間10分)。毎朝1個所づつ日本全国50個所の里山を紹介していく。” 里山に関係する季節感あふれる言葉が俳句の世界では季語としても使われているが、この番組ではその代表的な言葉として「里山、季節の言葉」の紹介があり、写真家の今森光彦撮影の映像が番組を構成している注1)。注1)今森光彦:1954年、滋賀県生まれ。写真家。琵琶湖をのぞむ田園風景の中にアトリエを構え活動している。自然と人との関わりを「里山」という空間概念で追い続け、最近では取材地を琵琶湖周辺から全国各地の里山に広げている。写真集に『里山物語』、(新潮社)、『湖辺』(世界文化社)、『世界昆虫記』(福音館書店)、『里山を歩こう』(岩波書店)など多くの著書がある。NHK の番組でもNHKスペシャル「映像詩里山」(2000年)、「里山 命めぐる水辺」(2004年)、「里山 森と人 響き合う命」(2009年)などに関わっている。第20回木村伊兵衛写真賞、第28回土門拳賞など数多くの賞を受賞。(http://www.imamoriworld.jp) この番組がいつから開始されているか定かでないが、過去に収録したものを纏めた特別番組が以下のように放映されている。・2011年5月28日(土)、BSプレミアム、17:30~18:46:「みんなで探そう!ニッポンの里山」、 出演者5名、千葉県鴨川市大山千枚田にて。・2012年3月24日(土)、BSプレミアム、13:00~17:00:「魅力再発見!里山100大全集」、 出演者は、司会2 名、ゲスト3 名、プレゼンター(VTR出演)5名、場所は滋賀県琵琶湖畔の里山にたたずむ老舗料亭にて。 また、2012年12月から2013年3月まで、再放送が行われていた。■鎌倉市における緑保全の市民運動 鎌倉市(神奈川県)の西南部に約60ヘクタールの丘陵地があり、鎌倉広町緑地と呼ばれている。首都圏では他に例を見ないほどに生態系が豊かな森に囲まれた一角である。かつてこの緑地が開発によって消失されることが計画されたことがあった。しかし、この自然は、長年にわたる市民運動によって守られたことが、今では里地里山保全の代表的な事例として紹介されるようになった。 その運動は、開発の気配を住民が察知した時から、開発計画の中止が決定されるまで30数年かかったという。その間には、地元住民、地方自治体、開発事業者の間での様々なやりとりが行われた訳で、その経緯をたどると以下のような努力が積み重ねられた貴重な結果であることが分かる。この運動の中心となった市民団体である「鎌倉の自然を守る連合会」は、運動史編纂委員会を組織、3年間の作業でその運動の経緯を1冊の報告書として出版した(「鎌倉広町の森はかくて守られた~市民運動の25年間の軌跡~」。その出版物では、以下のような経緯と活動の努力が詳細に記されている(写真)2)。 1973年に、地元の主婦(新鎌倉山自治会)が、広町緑地で開発業者が作業を始めたことを不審に思い、自治会組織として運動を始めることを考えはじめた。①アンケート調査で住民の総意が纏められた1778年に、住民の総意を確認するためアンケート調査を実施し、その結果、住民運動の必要性をが確認された。運動を進めるためには、専門家の知識と実施組織が必要であるとして準備を始めた。②専門委員会が組織された1979年に、専門委員会が設置され、正式名称を「広町の山を守る会」と定めた。以後、「広町の山の自然を観察する会」を開催、1984年には、近隣自治会の話し合いが実を結び、「鎌倉の自然を守る連合会」が結成された。単なる開発反対運動ではなく、鎌倉市の緑全体を見回す広い視野に立った保全運動に成長した。③関係者への陳情を文書でくり返した 1981年に、神奈川県知事、神奈川県議会議長、鎌倉市長、鎌倉市議会あてに、陳情書、質問状等を提出。以後、各種文書を関係先へ送付することを2003年の保全運動終結まで以下の規模で継続した。・文書の種類:陳情書、要請書、要望書、お願い、要求書、意見書、呼びかけ、申し入れ書、上申書、声明書、抗議声明書、報告書・送付先:鎌倉市、鎌倉市議会、鎌倉市議会議員、神奈川県知事、神奈川県知事候補、神奈川県議会、鎌倉選出神奈川県議会議員、建設省都市局長、神奈川県民、鎌倉市民、開発事業3社、主力3銀行、野村不動産・各種文書の送付回数:92件(個別文書×送付先数)④署名活動で一般の人を巻き込んだ 1993年に署名活動を実施、以後合計3回署名簿を6万人以上の署名を集める。・1983年:6万人( 鎌倉市長宛に提出)・1989年:12万人(神奈川県知事宛に提出)・1994年:22万人(鎌倉市議会議長宛に提出)⑤旧組織の参画・新組織の結成・組織間の連携で 組織を拡大、強化した・旧組織の参画:新鎌倉山自治会等の各種自治会および町内会・新組織の結成:広町の山を守る会、鎌倉山を守る会、台峯の緑を守る会、「鎌倉市緑地保全条例」の制定を求める市民の会、NPO鎌倉広町の森市民協議会、広町田<写真>鎌倉市における緑保全活動の記録2)<表1>「ニッポンの里山:ふるさとの絶景に出会う旅」の放映予定「ニッポンの里山:ふるさとの絶景に出会う旅」チャンネル:NHK-BS プレミアム放送日時:4 月1日より朝の放送:月曜日~土曜日の7:00 ~ 7:10(4 月1日~)、     または7:45 ~ 7:55(4 月22 日~)夜の放送:土曜日の19:15 ~ 19:251日(月、朝)「桃源郷になった畑 徳島県上勝町」2日(火、朝)「ムササビが飛ぶ杉林の里 栃木県日光市」3日(水、朝)「魚群れ泳ぐ里の川 岐阜県郡上市」4日(木、朝)「ヒガンバナ咲く棚田 佐賀県小城市」5日(金、朝)「セミ時雨が響く寺の森 東京都大田区」8日(月、朝)「ミサゴが舞い降りるため池 香川県丸亀平野」9日(火、朝)「アオバズク鳴くかやぶきの里 新潟県柏崎市」10日(水、朝)「アオバト群れる屋敷林 神奈川県大磯町」11日(木、朝)「命にぎわうビワの段々畑 山口県上関町」12日(金、朝)「シジミ育むヨシ原の沼 茨城県涸沼」13日(土、朝)「ツバメが集まるススキ原 奈良県曽爾村」13日(土、夜)「オオタカが巣立つ谷戸 茨城県土浦市」15日(月、朝)「炭作りが育てる照葉樹林 和歌山県みなべ町」16日(火、朝)「モモンガ舞う防風林 北海道十勝平野」17日(水、朝)「野鳥と暮らす石垣の里 群馬県甘楽町」18日(木、朝)「塩づくりとつながる雑木林 石川県珠洲市」19日(金、朝)「命のゆりかごヨシ原 滋賀県近江八幡市」20日(土、朝)「野鳥に恵みを残す柿畑 山梨県甲州市」20日(土、夜)「カワエビ踊る清流 高知県四万十川」22日(月、朝)「アゲハ舞うみかん畑 愛媛県松山市」22日(月、夜)「人とミツバチが育てる森 山形県朝日町」23日(火、朝)「ギフチョウ舞うカタクリの花園 山形県鶴岡市」23日(火、夜)「海女が守る磯 三重県鳥羽市」24日(水、朝)「命あふれる草と森の牧場 北海道旭川市」24日(水、夜)「フクロウが巣立つリンゴ畑 青森県青森市」25日(木、朝)「生きものたちが集う 天空のソバ畑 長野県飯田市」25日(木、夜)「機織りが育てる森 京都府宮津市」26日(金、朝)「馬が働く森 岩手県遠野市」26日(金、夜)「昆虫たちが守る茶畑 鹿児島県南九州市」27日(土、夜)「オオサンショウウオがすむ里の水路 鳥取県日南町」