メカトロニクス7月号2012年 page 52/60
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52 MECHATRONICS 2012.7《第39回》2 設計から始めよう(その37)図2-175 上向きプリズムシートに関する特許情報(その1)2-84)5.側射型照明装置(その21)(2)充実型側方照明( エッジライト) 方式(その22)⑮ ....
52 MECHATRONICS 2012.7《第39回》2 設計から始めよう(その37)図2-175 上向きプリズムシートに関する特許情報(その1)2-84)5.側射型照明装置(その21)(2)充実型側方照明( エッジライト) 方式(その22)⑮ 偏角シートⅳ 下向きプリズムシートの技術資料 前回の上向きプリズムシートに引き続いて、今回は下向きプリズムについて思考してゆこう。 米国特許US527495(1983-8-29)で優先権を主張して日本国特許1552142(既出図2-174 ②)を取得した“上向きプリズムシート”は、使用実施者により米国特許US53848(1987-5-26)を主張してさらに新規な特許2723251(出願日1988-5-26)が登録されて当該技術の根幹を確立した。これに遅れること3 月余の僅差、国内優先権(1987-7-11)を伴って出願されたのが“下向きプリズムシート”に関する発明である(図2-175 ②、③)。特許公開(1990-1-5)に続いて特許公告(1995-3-29) されたのであったが、異議申立が自然人3 名によってなされた(1995-6-19 ~29)。「異議申立」とは最近では少ない事例である。しかし先願の技術内容が「球状拡散光を集束する」機能に対して、後願では「斜向射出光を法線方向へ偏角する」作用が論及されている。両者の論点は比較検討された結果、異質なもの看做され「異議申立の理由なし」と判定されて無事に特許査定となった。 これらの出願を嚆矢とし、バックライトの需要が高まるにつれて、下向きプリズムシートに関しても多くの発明出願が後続した。それらは下向きプリズムの構造に他の要素を付加したもの、形態の一部を変化させたもの、基本構成を複合したものなどである。先行技術を利用し応用した場合、これらの実効的な権利範囲はどのように判断されているのだろうか。鋭意に研究して先願の地位を獲得しても、発明の新規性に伴う特許権が効果的に発揮されなくては、後願事件に対抗する効力は減衰してしまうだろう。 新技術を創造して新製品を開発している技術者がひとつの段階に到達して、特許の申請を試みる。それは社内の特許管理担当者により出願書の概略が作成され、そして社外の特許事務所による特許代理人が正式な出願手続きを実施する。このような過程が一般の手順だ。技術開発者にとって一連の手続きを終えると一応安堵する。同業者が類似の技術を研究し同等の出願をしていても、その挙動は即時には察知できない。他社が出願していても、公開まで法定年数がかかるからだ。 特許情報を断片的に単独だけで閲覧していては気にも留めなかったが、暫時経過した現在になると、図示(図2-175)のように、多くの特許情報を類似の範疇ごとに収集できる。それを時系列に従って整列させると、技術内容が進化しつつ新たな展開をしてゆく世界が見えてくる。恰も、チャールズ・ダーウィン(英1809~ 1882、地質学者・生物学者)が英国海軍測量船ビーグル号で5 年間(1831 ~ 1836)西廻り世界一周して資料を収集した時には気づかなかったが、後に親友アルフレッド・ウォレスの助言により“進化論evolution theory”を公表できるようになった事例に、この特許情報の分析方法が近似している。 進化論とは称するも原語は“evolution:展開”の意味であって環境に順応しながら変化する現象を意味する。“進歩”とか“良化”する意味合いではない。特許情報も、市場や技術の環境に順応しながら少しずつ変化してゆく。ここに示した図表を眺めてゆくと、技術の具体的な進展現象が明白に認識させられる。 先願人側は漸く発明した技術に権利が取得できて“安心”を得るが、後願人により利用され応用された発明で権利を脅かされる事態になっては悔しい。自社の新技術を他社から“安全”を守るには、未来を想定して種々なる変化を加味し豊潤な技術に仕立て上げ、当初から技術範囲を確固たるものにして出願しなければならない。“安心”は主観的な自己満足でしかない。客観的な“安全”を構築し、想定外の事態に対処するには相当の知恵が要るようだ。 このように特許情報を整理し分析、加工して要素別に時系列的に表示し、図面や数表、グラフなどで可視化する表現形態は種々様々に存在する。その手法は“特許地図:patent map”といわれる。既製の成本もあるが公開されるには時間がかかる。私たち3 現主義(現物・現時・現人)の最前線には間に合わない。開発技術者と特許管理者、特許代理人などが相互に結束して協力し合いながら、有効適切な形態を模索しつつ、市場動向や課題を把握しその方向性を立案し、特許地図を作成するようになる。このとき、積極的査定を受けた「特許」事件だけでなく、消極的査定の「拒絶」事件や、出願後任意の「取下」事件、および出願後に法定期間を経過しても審査請求しなかった「みなし取下げ」事件も包含しておこう。特許地図を表裏両面から精査できるので、実務に有益である。 液晶表示装置が商品化されてから既に長期間を経過し、バックライトに関する多くの特許権は有効期限が消滅時期を迎えつつある。とは言え、これまで培ってきた研究システムの構築や市場視野、解析能力をここで放棄することなく、別途の課題であっても十分に活用してゆきたいものだ。【参考文献】2-84)独立行政法人工業相有権情報・研修館「特許電子図書館(IPDL)」電子版2 設計からはじめよう(その38)