メカトロニクス6月号2012年 page 50/60
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50 MECHATRONICS 2012.6日本産業洗浄協議会専務理事 相模環境リサーチセンター 所長 小田切 力「世界化学年2011」~化学物質の存在の価値と将来の活用の展望~【第123回】 2011年は、国際連合が定める「国際年」....
50 MECHATRONICS 2012.6日本産業洗浄協議会専務理事 相模環境リサーチセンター 所長 小田切 力「世界化学年2011」~化学物質の存在の価値と将来の活用の展望~【第123回】 2011年は、国際連合が定める「国際年」では「世界化学年2011」であった。 化学物質は、科学的にはあらゆる物質の構成成分である。すなわち、我々の身のまわりにある総ての物質は化学物質の集まりであり、自然に存在するもの、人為的に作られたものがすべて含まれる。近年、化学物質の存在が地球環境問題と結びついて話題とされることが多く、本シリーズでは、化学物質の管理について国際的な動向から国内の法規制まで、各種トピックスを取り上げる機会が多かった。 しかし、化学物質の有効な活用が社会生活、家庭生活では必須のものであることは疑いのないところであり、日本の化学研究のレベルが世界の水準と比較して遜色のないことも、最近のノーベル化学賞受賞の経緯から明かである。 今回は、「世界化学年2011」にちなんで、その周辺の情報を紹介する。■国際連合が定める「国際年」 国際連合は、特定の事項に対して特に重点的問題解決を全世界の団体・個人に呼びかけるためにテーマを定めて一年間のキャンペーン活動を行っている。これは、国際年(International Year)あるいは国連年(United Nations Year)と呼ばれ、国際連合総会において採択・決議されるものである。 この制度は、1958年から開始されたが、これまでに環境問題が取り上げられた事例には以下のようなものがある。・2006 年:砂漠と砂漠化に関する国際年( International Year of Deserts andDesertifi cation)・2010 年:国際生物多様性年(International Yearof Biodiversity)■「世界化学年2011」 国際連合は、2008年末に開催された総会において、キューリー夫人のノーベル化学賞受賞注1)から100 年目に当たる2011 年を「世界化学年」(IYC2011:International Year of Chemistry)とすることを決定した。これは日本学術会議化学委員会が国際純正・応用化学連合注2)からの呼びかけに賛同し、化学委員会IUPAC分科会と共に、我が国が共同提案国として国際連合教育科学文化機関(UNESCO(ユネスコ):UnitedNations Educational, Scientific and CulturalOrganization)に働きかけ実現したものである。(注1)キュリー夫人:(Madame Marie Curie, 1867-1934)ポーランド生まれ。旧姓はSklodowska。パリ大学に学び、1895 年、Pier Curie と結婚、1898年に夫と協力してラジウムおよびポロニウムを発見。1902 年、金属ラジウムの分離に成功、その功績により1903 年ノーベル物理学賞を受賞(女性で初のノーベル賞受賞者)。夫の死後パリ大学教授となる。1911年、ラジウムの性質とその化合物の研究によりノーベル化学賞を受賞(史上初の2度のノーベル賞受賞者)。第一次世界大戦中は、ラジウム療法による 救護活動に尽力した(写真2)。(注2)国際純正・応用化学連合:(IUPAC、The International Unionof Pure and Applied Chemistry )化学者の国際学術機関であり、各国の化学の学会がその会員となっている。元素名や化合物名についての国際基準(IUPAC 命名法)を制定している組織として有名である。1919 年に設立された。 2011年はまた、IUPACが設立されて100年にも当たり、そのタイミングも考慮されている。 世界化学年の統一テーマは“Chemistry-our life,our future”となっており、その目的として以下の4項目を掲げている。①化学に対する社会の理解増進②若い世代の化学への興味の喚起③創造的未来への化学者の熱意の支援④女性の化学における活躍の場の支援 IUPACに対する日本代表機関である日本学術会議(化学委員会)は世界化学年を我が国において推進するため、日本化学連合に対して事業を具体化する準備を付託するとともに日本化学会はじめ化学系学協会に協力を要請した。このような経緯のもと我が国における世界化学年を企画・実行する主催組織として「世界化学年日本委員会」が発足することとなった。■「世界化学年2011」にちなんだ関係者の発言 今回の「世界化学年2011」にちなんで各種の行事、会合が企画された。それらに係わった関係者の発言で、特に地球環境問題と化学を結びつきを取り上げたものを以下に紹介する。①オゾン層破壊について ((化学工業製品、化学療法剤の数多い合成が文明社会のあり方を変えたことに触れてた後で、)“物質生産成果だけではない。フロンガスによるオゾン層破壊の危険性を警告したローランド、モリーナらは現代人の自然観と社会観を一変させた。フロンガスは安定していて、人体に無害かつ極めて便利な物質な反面、上空のオゾン層を破壊し、太陽からの紫外線の地上到達を助ける。この警告により、世界は健康破綻を免れそうだ。これら大きな化学業績に共通するのは経済行為を超えて、文明と人類の生存に関わっていることだ”(野依良治、世界化学年日本委員会委員長、理化学研究所理事長)7)②最終製品に化学の智恵 “素材があるからこそ最終製品を開発することができる。その時、最大の智恵を出せるのが化学であり、地球温暖化問題の解決、循環型社会への貢献、快適な社会構築など、化学が力を発揮すべきテーマは今後ますます増えてくるであろう。”(塚本建次、昭和電工(株) 取締役)6)③「世界化学年2011」を振り返って “私たちの毎日の生活が、これまであまり意識されてこなかったものの、実は化学に大きく依存していること、今後日本や世界の直面する資源、エネルギー、水、食糧、医療などの課題に正面から応えていこうとすれば、化学の力なしに有効な解決の道は見出すことができないこと、化学が様々なイノベーションの源泉になることなどについての認識が大きく広がったように思える。”(西出徹雄、日本化学工業協会専務理事、実行委員会副委員長)3)④世界化学年を振り返って:新たなスタート “人類社会は、有限の地球上における資源の不足・枯渇、エネルギー問題、気候変動や環境劣化、医療・健康、自然大災害をはじめとする様々な地球規模の問題に直面している。「世界化学年」を新たなスタートとして、2012 年、化学の総力を挙げて国難に対応し、科学・技術力および産業競争力を一層高め、持続可能な社会を支える人材の育成と増進を図り、わが国の力強い将来を構築するため、化学が貢献すべきと考える。”(岩澤康裕、日本化学会会長、日本委員会副委員長)3) ⑤世界化学年でアピールしたいこと “地球の持続的発展に向けて、我々の生活や未来に化学が貢献できることをアピールしたい。省エネルギー社会の実現に向けたリチウムイオン二次電池や太陽電池、発光ダイオード(LED)の部材のほか、食糧増産に向けた肥料や食品包装、水不足に役立つろ過膜、医薬品にも化学製品は使われている。地球温暖化や食糧不足など、世界全体の課題を解決できる可能性が化学工業にあることを知ってほしい。”(藤吉建二、日本化学工業協会会長)7)■ノーベル化学賞受賞者日本のノーベル化学賞受賞者は、合計7名で、日本の化学研究が国際的にも有名になったことを物語っている。化学工業日報社が刊行した「世界化学年2011」を記念するパンフレットで、ノーベル化学賞受賞者全員のインタビュー記事が紹介されている。これは、佐藤健太郎氏(東京大学大学院特任助教)が記したもので、7 名の受賞者の業績を同一の視点で紹介した点、各受賞内容が分かりやすく比較できる点参考になる。以下にその概要を紹介する6)。・福井謙一(京都帝国大学工学部卒、工学博士(京都大学)、“化学反応過程の理論的研究”により1981 年に受賞) 天才の業績というものは、後世の人が見ると本当の凄さがわかりにくいことがままある。あまりにもシンプルに物事の核心を捉えたアイディアというものは、まるで以前から誰もが知っていた、ごく当たり前なもののように感じられてしまうらしい。福井謙一博士の「フロンティア軌道理論」は、まさにそんな例だ。<写真1>「世界化学年2011」のロゴマーク1)<写真2>旧版の「キュリー夫人傳」8)