メカトロニクス5月号2012年

メカトロニクス5月号2012年 page 51/60

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概要:
MECHATRONICS 2012.5 51用途には、冷媒、ポリマーの発泡剤、エアゾールスプレー用の噴射剤、エレクトロニクス部品の洗浄剤がある。このような利用の方法は、ほとんどが、最終的にはCFC を大気中に放出することを意味....

MECHATRONICS 2012.5 51用途には、冷媒、ポリマーの発泡剤、エアゾールスプレー用の噴射剤、エレクトロニクス部品の洗浄剤がある。このような利用の方法は、ほとんどが、最終的にはCFC を大気中に放出することを意味していた。 世界の全CFC生産量は、過去20 年間、5 ~ 7 年ごとに倍増し、1974 年には年間100 万トンの規模にまでなった。(2)大気中のCFC の行方 大気による化学物質の除去、あるいは大気中での化学物質の破壊は、通常三つのプロセスのどれかによって行われている。 まず、緑色の塩素(Cl2)のように色のついた気体は、太陽光線の中の可視光を吸収し、分解される。同じような分解は、目に見えない紫外線照射を吸収したときにも起こる。 第2 に、塩化水素(HCl)のような気体は、水滴に溶けることができ、雨水によって大気中から除かれる。 第3に、メタン(CH4)のような他の気体は、水酸基(HO)のような酸化力のある分子種(オキシダント)と反応することが可能である。 ところが、CFC は透過性があり(transparent、光を吸収せず)、全く不活性である。そのため、CFC には通常の除去プロセスが通用しないので、何十年にもわたって大気中では、変化せずに漂うことになる。 CFC が破壊されるような現象が急速には起こらないとすれば、一体どんなより緩やかなプロセスが大気中のフロンの運命を定めているのかが問題となる。(3)太陽紫外線とオゾン層 地球の大気圏の一番高いところに届く太陽紫外線(solar ultraviolet、UV)は、3 つのエネルギー領域に分けて考えることができ、UV-A、UV-B、UV-C と呼ばれている。この中ではUV-C がもっとも高いエネルギーをもっている。CFC 分子はUV-A とUV-B を透過するが、UV-C は吸収して、その過程で破壊される。 しかし、大気中に大量に存在する酸素(O2)は、地表から30~50kmの上空で、同じくUV-Cを吸収して、2 つの酸素原子に分解される。この酸素原子は、ほかの酸素分子(O2)と結びつき、三原子分子であるオゾン(O3)が作られる。 オゾンは、UV-C とUV-B の両方を吸収することができるので、太陽からのUV-C は、地表から約25kmより低いところまでは届かず、わずかな量のUV-B だけが地表面まで到達する。(4)CFC とオゾン層の関係 CFC は、この“オゾン遮蔽層(Ozone Shield)”によってUV-C照射から守られている。UV-C にさらされるのは、大気中のほとんどのO2とO3が存在する30kmを超える高度以上に漂い上がった場合である。 その位置(高度30km 以上)では、CCl3FなどのCFC分子は紫外線UV-Cを吸収し、その結果非常に反応性の高い自由塩素原子Cl と、これまた反応性の高いCCl2F へと分解される。CFC 分子は、最終的には、オゾン遮蔽層の上にある中間成層圏でUV-C によって破壊されるが、それまで平均して75 ~100年間存在し続けるのである。(5)CFC 中の塩素の作用 不活性なCFC分子とは異なり、新たに放出された塩素原子は、直ちにオゾンを攻撃し、オゾン分子から酸素原子の一つを取り込んで、一酸化塩素ラジカル(ClO)を形成する(反応1)。このClO は、素早く自由な酸素原子と衝突し、再びCl を放出する(反応2)。    Cl + O3 → ClO + O2(反応1)    ClO + O → Cl + O2(反応2) (反応1)と(反応2)の組合せには、2 つの重要な側面がある。第1 には、これらの反応の正味の変化は、オゾンが通常の酸素に転換するという点である。第2 には、塩素原子は、こうした一連の反応を再び自由に開始できるという点である。 こうした連続する反応は、「触媒連鎖反応(Catalytic Chain Reaction)」と呼ばれ、何らかの代わりの反応工程によって中断されるまで、何千回も繰り返される。 成層圏(Stratosphere)においては、平均的なCl原子は、降下して雨滴に捕らえられるまでに、最終的には約10 万個ものオゾン分子をを破壊してしまう。何百万トンというCFC 分子の大気中への放出は、10万回の連鎖反応によって増幅され、大気中のオゾン量を地球規模で減少させる大きな原因となる。(6)オゾン層の枯渇 1974 年に、モリナ博士と私は、CFC を大気中に放出し続けるならば、世界中のオゾン量は平均で7%から13%までも枯渇する(Deplete)であろうと予測した。 地球規模でのオゾンの大規模な枯渇は、2つの重大な結果をもたらす。 ① 太陽光線の中のUV-C の全量とUV-B の一部分が、上部大気圏中で吸収されているので、高い高度域に重大なエネルギーの投入をもたらし、(高度が上がるにつれて温度が上昇するという)成層圏を生みだしている。 ② 成層圏中のオゾン量が失われると、地表に到達するUV-B の照射量が増加する。 成層圏オゾンがつくる“遮蔽層”は、地球上のすべての生物種を保護している。そこでUV-B の照射量が増加することは、多くの生命系に危害をもたらす可能性がある。UV-B 照射は、人間の皮膚ガンの主要な原因となっている。したがって、オゾンの枯渇は、皮膚ガンの増加をもたらすが、この病気は、すでに米国だけで毎年40 万件も新しく発生しており、全世界ではさらに多くの数となる。 オゾン枯渇(Ozone Depletion)の影響は、プランクトン、農産物の収穫、およびその他各種の生物システムにも影響を与えると予想される。最終的には、成層圏の温度構造が変化し、それが風の性質に影響して、ついには気候の変動をもたらす可能性がある。(7)温室効果ガス 主要なCFC 類の大気中濃度は、過去15 年間に着実に増加しており、それはCFC類の大気中寿命が75 ~100 年であるという当初の推定を確認するものである。 その他の微量ガスの大気中濃度も、同様に急速な増加を遂げている。二酸化炭素(CO2)は、1958年以来、約10%増加し、メタンは1978 年以来12 %、一酸化二窒素(N2O)は毎年0.2 %増加している。また、地表近辺のオゾンも同様に着実に増加しつつある。 これらのガスは、いずれも地球から外方向に向かう赤外線照射を遮るものであり、大気を暖めることになる(“温室効果、Greenhouse Eff ect”)。その主要な要因は、石炭、ガス、石油、熱帯林の燃焼で放出されるCO2なのである。 これらの微量ガスの濃度が増加すると、地球の平均気温は上昇し、21 世紀半ばまでには、恐らく3℃は上昇するであろう。こうした気温の上昇は、その他のさまざまな地球物理学的変化を伴う可能性があり、海面の上昇、より強力なハリケーンの増加、湿地帯と乾燥地帯の交替、極地の万年氷(Ice-cap)の部分的溶解が考えられる。(8)オゾンホールの発生 1980 年代には、大気中に新しい現象が現れた。すなわち、南極上空では毎春、オゾン層の大規模な枯渇が起こり、ある高度では減少率が98%にもおよび、成層圏全体では60%に達する。こうしたオゾンの枯渇(Depletion)の原因は、化学と気象学の組合せに係わるものである。 南極の冬期は暗い期間が続き、その上空の成層圏は非常に寒くなり、極成層圏雲(PolarStratosphere Clouds、PSC)を形成する。PSCは、成層圏での塩素と窒素の化学反応を乱し、ClOが介在する触媒反応が進行する。この反応は、春になって成層圏が暖かくなり、PSCが消滅するまで、何週間も中断されることなく続くのである。 地上の研究所での実験、および南極上空における飛行機による観測は、南極上空の“オゾンホール”の第一の原因が、特にCFC から生まれて、現在大気中に大量に存在する塩素であることを決定的に確認した。(9)オゾン量の測定  オゾンの測定は、過去50年間、多数の地上観測基地で行われてきた。そのほとんどは、北緯30 度から65 度の範囲に存在する。ここで得られたオゾンのデータを統計的に分析した結果、平均すると北半球でも数%のオゾン枯渇が認められた。その減少は、冬期に顕著で、夏期には少なかった。 1989 年の北極探検では、北極でもPSCが存在すること、また、成層圏の一酸化塩素ラジカル(ClO)濃度が非常に高くなっていることが明らかになった。北極の場合も、南極と非常によく似ていることが分かった。(10)CFC 使用の禁止 塩素が引き起こす成層圏オゾンの枯渇についての懸念が高まり、1070 年代の後期になって、米国、カナダ、スウェーデン、ノルウェーの各国で、エアゾール製品に利用されるCFC の使用が禁止されることになった。ところが、広範囲の新しい用途「特にエレクトロニクス部品のCFC-113による洗浄」が開発され、1974年以降も、CFC放出量は毎年少なくとも100万トンという水準が続いている。 CFC の寿命は非常に長いので、将来どのような規制措置がとられるかとは関係なく、大気中の塩素濃度は今後100年から200年にわたって高い値を持ち続けるであろう。さらに、CFC が大気圏から成層圏に移動するのに数年はかかるので、成層圏オゾンの枯渇が最大になるのは、実質的なCFC放出が停止されてから、10年もしくはそれ以上経過してからのことになるであろう。(11)国際合意によるモントリオール議定書 CFC放出の世界的規制は、1987 年9 月に、国連環境計画(UNEP)のモントリオール議定書によって、初めて合意に達した。この議定書の当初の目標は、1998年までにCFC の大気中への放出量を現行水準の50 %にまで削減しようというものであった。 しかし、こうした部分的な禁止が実施されても、大気中の塩素の総量は何十年にもわたって増加し続けるであろう。多くの主要なCFC生産企業と生産国は、今では、今後数十年の間にCFCの生産を全廃することに同意している。そして、代替品の開発は熱心に進められている。CFC 以外の気体の規制は、さらに困難であろうが、しかしそれらの微量気体の濃度が着実に増加し続けるのであれば、何らかの規制が必要となるかもしれない。(2012.3.20 記)<参考資料>1)Malio J. Molina & F. S. Rowland :“ Stratospheric  sink for chlorofluoromethanes : chlorine atom- catalysed destruction of ozone”Nature, Vol. 249, No.5460, pp.810-812, June 28, 19742)財団法人国際科学技術財団:「JAPAN PRIZE 1989( 日 本国際賞1989)」pp163(1989.10)3)財団法人国際科学技術財団:「(パンフレット)日本国際賞 1989 記念講演会」(1989.4)