メカトロニクス5月号2012年 page 50/60
このページは メカトロニクス5月号2012年 の電子ブックに掲載されている50ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。
概要:
50 MECHATRONICS 2012.5日本産業洗浄協議会専務理事 相模環境リサーチセンター 所長 小田切 力オゾン層保護の先駆者の訃報~日本国際賞を受けたローランド博士の業績~【第122回】 F・シャーウッド・ローランド博....
50 MECHATRONICS 2012.5日本産業洗浄協議会専務理事 相模環境リサーチセンター 所長 小田切 力オゾン層保護の先駆者の訃報~日本国際賞を受けたローランド博士の業績~【第122回】 F・シャーウッド・ローランド博士の訃報を知ったのは、3月12日(月)深夜に届いた知人からのE-メールからであった。その文面には以下のようなインターネットのニュース速報が紹介されていた。 “ノーベル化学賞受賞者のシャーウッド・ローランド氏が10日、米ロサンゼルス近郊の自宅で死去。教授を務めていたカリフォルニア大アーバイン校が発表した。84歳だった。スプレー缶に広く使われていたフロンがオゾン層を破壊するとの研究を1974年に発表。当初は批判を受けたが、85年には実際に南極上空でオゾンホールが見つかり、世界的なフロン規制につながった。95年のノーベル賞は別の研究者2人と共同受賞。89年には日本国際賞も受賞した。(読売新聞 3月12日(月)22時56分配信) 同博士が日本国際賞の受賞者であることは、あまり知られておらず、新聞の訃報でも紹介されていない場合が多かったようであった。同博士がノーベル化学賞を授賞した年(1995年)よりも6年前の出来事であり、日本国際賞の先見性ある授賞候補者の選定は、もっと評価されるべきものである。 今回はローランド博士の業績を偲んで、日本国際賞と同博士の受賞記念講演の概要を紹介する(写真1)。■ローランド博士の業績 ローランド博士の業績は、日本国際賞では、“クロロフルオロカーボンによる成層圏オゾン層破壊の解明”で、“メカニズムを世界で初めて指摘、その理論的解明と予測を明らかにした。・・・博士の卓越した洞察力によって導かれたこの理論の正しさは、その後世界の多くの専門家によって実証され、成層圏オゾン層保護の対応において国際的、社会的に大きな影響を与えた”とある。 また、ノーベル化学賞では、“オゾンの形成と分解に関する大気化学的研究”で、“人間の社会的生活で放出される化学物質がオゾンを破壊することを指摘し、オゾン層保護の大切さを科学的に立場から示した”とある。このオゾン層破壊の危険の警告は、1974 年に同博士が共同研究者のモリナ博士と共に発表した論文で公表された。それは、引用文献を除いた本文だけではわずか2ページであったが、世界中に大きな反響を与えた(写真2)1)。 同博士がオゾン層保護に貢献したとして受けた賞の一部には以下のものがある。・1988 年:UNEP Global 500 Award・1989 年:日本国際賞・1993 年:U.S. EPA Stratospheric Ozone Protection Award-Individual Award・1995 年:ノーベル化学賞・1995 年:1995 UNEP Ozone Award・1997 年:EPA Best-of-the-Best Stratospheric Protection Award-Individual Award■ 日本国際賞について 「日本国際賞」は、全世界の科学技術者を対象とし、科学技術の分野において、独創的・飛躍的な成果を挙げ、科学技術の進歩に大きく寄与し、もって人類の繁栄と平和に著しく貢献したと認められた者に与えられるものされている。 日本国際賞の創設は1981 年、当時の鈴木内閣の中山太郎総理府注1)総務長官が「国際社会への恩返しの意味で、日本にノーベル賞並みの世界的な国際賞を作っては・・・」と構想をたてられたのが契機となり、さらに基金の面で故松下幸之助氏の“畢生の志”としての寄付が肝いりとなって実現した。注1)総理府:現在の内閣府 日本国際賞の受賞者は、2012 年度(第28 回)までに、78 名を数えるが、その中で環境問題に係わる分野での授賞は、以下の7 件、8 名である注2)。注2)受賞者の紹介は、氏名(生没年、国籍、所属機関(授賞時))、授賞対象分野(授賞業績)、年次(回))を示す。ローランド博士は、同賞を1989年(第5回)に受賞している。・ピーター・ヴィトーセク博士(1949 ~、アメリカ、スタンフォード大学生物学部教授):生物生産・生命環境(窒素などの物質循環解析に基づく地球環境問題解決への貢献)、2011 年(第27回)・デニス・メドウズ博士(1942 ~、アメリカ、ニューハンプシャー大学名誉教授、インタラクティブラーニング研究所代表):自然と共生する持続可能な技術社会形成(『成長の限界』報を基盤とする持続可能な社会形成への貢献)、2009 年度(第25 回)・ピーター・ショウ・アシュトン博士(1934 ~、イギリス、ハーバード大学チャールズ・ブラード森林学名誉教授):共生の科学と技術(人と共生する熱帯林保全への貢献)、2007 年(第23回)・サー・ジョン・ホートン博士(1931 ~、イギリス、ハドレー気候研究センター名誉科学者及び同センター前理事長):地球環境変動(衛星観測による大気構造・組成の先駆的研究並びに気候変動アセスメントへの国際的取組みにおける貢献)、2006 年(第22回)・本多健一博士(1925 ~ 2011、日本、東京大学名誉教授)、藤嶋昭博士(1942 ~、日本、財団法人神奈川科学技術アカデミー理事長):環境改善に貢献する化学技術(水の光分解触媒の発見と環境触媒への展開)、2004 年(第20回)・ジョン・ロートン教授(1943 ~、イギリス、自然環境研究所会議理事長):生物多様性保全の科学と技術(生物多様性の研究と保全に貢献する基礎調査・実験・理論お包含する業績)、2004 年(第20回)・F・シャーウッド・ローランド博士(1927 ~ 2012、アメリカ、カリフォルニア大学教授):環境科学技術(クロロフルオロカーボン(フロンガス)による成層圏オゾン層破壊のメカニズムの研究)、1989 年(第5回)■ローランド博士の記念講演 ローランド博士は、1989 年に東京と京都で開催された「日本国際賞1989記念講演会」で“人間活動は地球大気をどう変えたか(原題:The ChangingAtmosphere)”と題する記念講演を行った。以下はその要旨である注3)。注3)同博士の記念講演の全文はスライドを含めて和英両文で出版されている2)。ここで紹介するものは、講演会の配布資料に掲載されたものを要約したものである3)。(1)問題の発端 1971 年、人工の不活性な気体であるトリクロロフルオロメタン(CCl3F、商品名はCFC-11)が、地球大気に広く存在しているという観測結果が大気科学者に、まさに異例の難問を提供した。それは、「CFC-11 は、大気中で最終的にどうなるかを、研究室内で知られているその性質をもとに、確定するのは可能か」という問題であった。 私は、1973 年に米国原子力委員会(U.S. AtomicEnergy Commission)に対してこのような研究を提案し、その後、同年に同僚のマリオ・J・モリナ博士とともに、この問いに対する答えを探し始めた。 何種類かのCFC 分子は、技術的に成功を収め、その<写真1>「 ローランド博士を囲む会」(1997年7月)で挨拶する同博士(筆者撮影)<写真2> 成層圏オゾン層の破壊を予知した同博士の論文1)