ブックタイトル実装技術6月号2020年特別編集版
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実装技術6月号2020年特別編集版
51いては、導電性粒子が互いに接触し、その接点を通して、電流を担う電子が移動して行くので、その行程はジグザグで、ソリッドの金属である銅箔に比べて大幅に長くなってしまう。また、厚膜導体の有効断面積は金属導体に比べて、桁が違うほど小さくなってしまう。たとえていえば、銅箔の構造が個体の金属銅と同じで、電解銅で作られた電線と同等であるのに対して、厚膜印刷で形成する導体は、綿のようにスカスカで、導体としての実効断面積は、二桁から三桁も小さくなってしまう。このような事情は極めて基本的なもので、厚膜印刷で形成した導体が、同じ断面積を持つ金属銅の導体と同等の導電性を持たせることは不可能であるといってよい。 また、厚膜導体は、高周波伝送特性でも、銅箔の回路に比べて劣っていると考えるべきである。これは、電気が流れるパスがジグザグになってしまい、信号伝達時間にズレが生じてしまうためである。 近年、金属銀や金属銅の微粉末(ナノパウダー)を導体として練り込んだインクを印刷して、高い導電性を得たとの報告もあるが、それでも、金属銅に比べれば、導電性は一桁程度の差がある。現在、厚膜印刷回路の導体として、もっとも多く使われているのは銀である。これは、金属銀の導電率が、あらゆる物質の中で最も大きいことによるものではない。金属銀の導電率は、金属銅に比べて約5%大きいだけであり、その市場価格の差を考えれば、銀を主要な導体材料として使う理由にはならない。現実には、粉体としての金属銅は、化学的に極めて不安定であり、回路導体の材料として使うには大きな問題になる。そこで、材料に高いコストを払っても、化学的に安定性のある金属銀を導体材料として使うことになった次第である。 結論としていえることは、その回路で、導体抵抗や電流容量が問題になるような場合には、厚膜印刷回路は使うべきではないといってよい。また、高速伝送回路にも使うべきではない。2. 絶縁特性 電子回路であれば、導電性と並んで重要なのが、回路間の絶縁性である。銅張積層板の銅箔が確実にエッチングされれれば、導体間の絶縁抵抗は確保される。一方、銀インクを使って形成する厚膜印刷回路の場合には、マイグレーションの問題がある。 マイグレーションとは、図2に示されているように、2 本の導体間に電位がかかっていると、導体中の金属原子がイオン化し、陽極側から、陰極側に移動する現象である。金属であれば、マイグレーション現象は、大なり小なりあるが、銀において著しく大きい。特に高温高湿下では加速され、回路間に広がりやがて短絡(ショート)事故を起こしかねない。このため、銀インクの厚膜印刷回路を裸で使うことは避けるべきで、回路上にカバーを印刷するなど、何らかの絶縁、保護処理が必要である(具体的な方法については、別途詳述する)。3. 高密度回路の形成 プリント基板の微細化は永遠のテーマといってよい。メーカーもユーザーも、より微細な、より高密度の回路を求め続けてきた。筆者がプリント基板の仕事を始めた40年前は、150ミクロンの片面フレキシブル基板を安定して作ることができなかった。しかし、近年は銅導体でピッチ30ミクロンのフレキシブル基板が、RTRで量産されるようになっている。次世代のフラットパネルディスプレイのドライバモジュールに図2 厚膜印刷回路のマイグレーション■コラム( 銅パウダーを使った導体用厚膜印刷インク) 金属銀は、あらゆる物質の中でもっとも電気伝導率が高いといっても、二番目の金属銅に比べて、わずかに5 %大きいだけである。それに対して、銀の市場価格は、銅に比べて二桁の差がある(銀、銅とも、市場価格はかなり変動する。国際間の緊張が高まったりすると、数十%ぐらいは上下してしまう)。このため、高価な銀の代替材料として、銅が使えないかという検討が数多くなされてきている。筆者のもとに持ち込まれたものだけでも十件を越えるであろう。残念ながら、導体回路材料として実用になったものは1 件もない。わずかに、シールド層を印刷形成するのに使われている程度である。現在でも、銅ナノインクと称する新材料が持ち込まれることは、少なくない。しかし、現実には導電性が改善されることは無く、データシートを見ただけで差し戻しになってしまう。