ブックタイトル実装技術7月号2015年特別編集版

ページ
19/26

このページは 実装技術7月号2015年特別編集版 の電子ブックに掲載されている19ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

実装技術7月号2015年特別編集版

27 タンペレ市やオウル市などのフィンランドの主要都市にもVTTの拠点があり、そこでも同様な産官学の連携を果たしている。北極圏に近いオウル市のVTTではプリンテッド技術が有名で、昨年のIMAPS Nordic学会の開催会場にもなった1)。プロジェクト予算は、①企業との契約プロジェクト、②政府プロジェクト、③ EUやECプロジェクトからなる。VTTは今年2015 年に国立標準認定研究機関(MIKES)と経営統合され、VTT の名称から「国立」が抜け、フィンランド技術センター(有限会社)となった。しかし、このおかげで資金の獲得手段が増え、国際的な顧客へのサービスの充実に力を注げるようになった。絶え間ない歴史的な変遷を経過してきたフィンランド人にとっては、このような変化に対応できること自身が、まさにフィンランドの国民力であり、柔軟性に富んでいるという証しである。■VTTの歴史 フィンランドは1917年にロシア帝国から独立宣言をしたが、大学などの創立は独立よりも古く、ヘルシンキ工科大学は1908 年、ヘルシンキ大学に於いては1640 年である。1942 年、第5 代大統領Risto Ryti の「科学と社会のために技術研究に従事せよ」という指示のもと、当時の貿易産業省(現:労働経済省)所管で国立科学技術研究所VTTが発足した。実際の運営はヘルシンキ工科大学(現:アールト大学)と密接に行われ、当初10 あった研究室のうち、3つはヘルシンキ工科大学内に設置された。このためヘルシンキ工科大学出身のVTT 職員が今でも多い。1941 年、ソ連からフィンランドへの空爆をきっかけに、1944 年までソ連とは継続戦争となり、その戦時下での技術研究需要によりVTTは大きな発展を遂げた。なかでも防火研究所(写真2)での建屋空爆耐性の研究がもっとも重要視された。しかし、現在では戦争・紛争に直接的に関する研究プロジェクトはタブーとなっている。 1960 年代から半導体研究をはじめ、今日ではIoTに不可欠なMEMSデバイスやビッグデータを操るICT 技術が中心になっている。1965 年に発足された低温物理学研究室(Low Temperature Laboratory)によるSQUIDを使用した脳磁図(MEG)技術やMEMSデバイスに不可欠なALD薄膜技術などは世界的にも有名である。 VTT はクラス10 のクリーンルームを2,600m2 保有し、VTT のメインクリーンルームは別名ミクロノバ(MICRONOVA)と呼ばれ、北欧随一、かつ、ヨーロッパでもトップクラスのクリーンルームとなっている。クリーンルーム内の一部はアールト大学も所有し、他国の学生にとっては質の高い学術研究ができる環境になっている。現在、対応できるウェハサイズは標準6インチで、一部8インチ対応のラインもある。大学側ラインでは4インチとそれ以外のサイズにも対応でき、VTT以外の企業もクリーンルームを借用できる。このように一般に広く門戸を開き、国がR&D 活性化に貢献しているのはすばらしいことである。このクリーンルームの運営管理は、VTT のエンジニアチームが24 時間体制で行っている。過去、2006 年にクリーンルーム内で火災が発生し、1,100m2を失ったが、現在は復旧も完全に果たしており火災の爪痕はどこにも見受けられない。3. ADVACAM社について 国の設立した研究所では広い研究分野はカバーできるが、企業のように量産体制や品質・在庫管理においては限界がある。VTTで成熟した技術から「どうやって効率よく利益を得るのか」という疑問に対しては、IP(知的財産権)の効率的運用が挙げられる。VTTが直接商品化して売ることはせず、企業へ技術移転してロイヤリティーを徴収し、スピンオフ会社を支援することにより、研究成果の最大有効利用を推進している。写真2 左)戦時中の防火研究所 右)VTTクリーンルーム